映画『WOOD JOB! 神去なあなあ日常』
【5月10日特記】 映画『WOOD JOB! 神去なあなあ日常』を観てきた。
わざわざ書くまでもないかもしれないが、矢口史靖という監督は、男子シンクロナイズド・スイミングやら、女子高生ビッグバンドやら、ロボット産業やら、ともかく題材の採り方が独特で、映画が始まる前からすでに観客を笑いに巻き込んでいると言える。
そして、今回僕がとても気になったのが、今まで彼は全てオリジナル脚本で撮ってきたはずで、今回が初めての原作もの、しかも三浦しをんのベストセラー小説である(僕は読んでないけどw)点である。
この監督が原作ものをどう処理するのか?
で、結論から書くと、映画は原作をかなり書き換えているらしい。ただ、設定や展開はいじってあってもエッセンスはちゃんと引き継いでいるらしく、監督は三浦しをんに拒否されたらどうしようと心配したらしいが、それも全くの杞憂に終わったとのことである。
で、今回の映画もまずは、その設定の妙である。
大学受験に失敗して、彼女にも振られた平野勇気。たまたま見た林業研修のパンフレットの表紙の写真の女性に惹かれて三重の山奥まで行ってしまう。研修は携帯も通じないしコンビニもない山奥で1年間も続くのに。
行動力があるんだか馬鹿なんだか分からない男の子である。
その勇気に扮しているのが染谷将太、表紙の写真は石井直紀という女性で、扮しているのは長澤まさみ。
勇気は村に行けばすぐに直紀に会えるものだと思っていたのだが、ひょっとしたらこの村にいる人ではないかもしれないことに気づく。そして、講師としてやってくる林業従事者は荒っぽくて粗野でどうも馴染めない。特に飯田ヨキ(伊藤英明)が怖い。
作業も辛いし環境にも耐えられずトンズラしようとするのだが、そこで直紀の姿を見咎めて居残る決心をする、という展開である。
林業というテーマの新奇さがあって、そして、このテーマならではの映像の美しさがある。そして、林業でしか、林業の村でしか味わえないカタルシスがある。
よくまあそこまで登ったなあという高さまで、役者たちがスタントなしで木に登り、よくまあそんな大きな木を伐らせてくれたなあと思う巨木を本当に伐り倒している。
山間を走る1両編成の列車。山頂から山裾に向けて降りてくる霧。チェーン・ソーの唸り。切り株の木目。村の老人たちや子どもたち。山の神、神隠し、そして祭り・・・。
伊藤英明やマキタスポーツ、有福正志らが扮する中村林業のメンバーが本当に逞しく、純朴で、それらしいリアリティがある。トラックの荷台に揺られて皆で木挽唄を歌うシーンなんか、とても平成時代の映画とは思えない。しかし、和気藹々とした温もりがある。
複雑な話ではないが、クライマックスの祭りに至るまでにもいろいろな小事件を仕込んであって、観る者を飽きさせない。
やっぱり巧いわ、この監督は。役者たちのインタビューを読んでいても、それぞれの発言の中に監督への信頼と尊敬の念が現れているところが良いなあと思う。
監督は
「里山は楽しそうだ」「林業最高!」という啓蒙にならないようにも気をつけました
と言っている。そういうリアリティに対する正しい態度に、僕は敬意を送りたい。
客はそんなに多くなかったけど、笑いはたくさん興っていた。キャスト・スタッフの全てのロール・テロップが終わった後、とても良い画で映画は締まる。この最後のシーンを見逃さないようにしてほしい。
後口の良い映画だった。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
Comments
突然のコメント失礼いたします。
『WOOD JOB! 神去なあなあ日常』をブログにてお取り上げいただきまして、ありがとうございます。私は劇中にてふんどし男の一人として参加させていただいた者です。ブログの内容からご満足いただけたようで良かったです。この映画を一人でも多くの方に観ていただきたいと思っております。観ていただいた方には大変好評なのですが、残念ながら公開後の動員数が満足できる数には届いておりません。よろしければこれからも口コミ・書き込みにてご協力いただければ幸いです。よろしくお願い申し上げます。
Posted by: | Tuesday, May 13, 2014 23:22