『ザ・ガール ヒッチコックに囚われた女』
【5月3日特記】 WOWOW から録画しておいた『ザ・ガール ヒッチコックに囚われた女』を観た。えらいものを見てしまった。
調べてみると日本ではほとんど評判にもならなかった映画のようだ。2012年の米英合作。監督はジュリアン・ジャロルド。
WOWOW でやったヒッチコック特集をまとめて録画したらその中に入っていた映画で、見始めてから「ああ、この特集はヒッチコック作品だけではなかったのか」と気づいた。で、ヒッチコックの伝記かと思ったら、そうでもない。
いきなり『鳥』を撮り始める直前のヒッチコックから描き始める。すでに名声の確立したヒッチコックである。ヒッチコック役はトビー・ジョーンズ。
ヒッチコックは『鳥』の主演に無名のモデル、ティッピ・ヘドレンを起用する。ヒッチコックが過去に起用したグレース・ケリーやイングリッド・バーグマンと同じブロンドの美女である。
ティッピに扮しているのはシエナ・ミラーという人で、この人もかなりの美人である。
ティッピに演技をつける時に、ヒッチコックは七面倒臭い解釈論を言わず「声のトーンを3音下げて、今の台詞をもう一度」と言ったり、本人には模型と合成の鳥で襲われるシーンを撮ると言っておきながら、本番では突然本物の鳥を使って、ティッピが血だらけになって倒れるまでテイクを繰り返すなど、これがヒッチコックなのか、と唸らせるようなエピソードやシーンがいっぱい出て来る。
『サイコ』と全く同じ構図でシャワーヘッドをアップで撮ってみたり、恐らくヒッチコック映画にもっと詳しければもっともっとニヤリとできたんだろうな、などと思う(例えば僕は『サイコ』と『鳥』は TV で観ているが、それも何十年も昔だし、『マーニー』は観ていないので)。
ところが、中盤から映画はどんどんアブナイ方向に転がって行く。映画の副題は「ヒッチコックに囚われた女」だが、この表現は微妙である。むしろ逆で、ティッピに恋して、囚われて、性的妄執を抱いたヒッチコックを描いているのである。
Wikipedia の表現を借りると、「アルフレッド・ヒッチコック監督による女優ティッピ・ヘドレンに対するセクハラを描いている」ということになる。
そして、ティッピもまるで囚われの身のようになる。
ある日ヒッチコックが車の中でティッピに襲いかかり、無理やりキスしたのが最初で、そこからヒッチコックの倒錯した一方的な思いに押しまくられ、ティッピはひたすら必死の思いで『鳥』と『マーニー』のクランクアップまで耐える。
なんだか凄い。これ、ヒッチコックの遺族に訴えられたりしなかったのだろうか? 僕はそういう表現は好まないが、これは多くの人が「ヘンタイ」のひと言で一刀両断にするような男を描いている。
ヒッチコックと妻との関係がまた凄い。この映画がどこまでの証拠に基づいて人物やエピソードを構成しているのかは知らないが、この映画によると、恐らくこの妻の存在がなければヒッチコックはあれほどの巨匠にはなっていない。
なんだか怖いものを観てしまった。ま、ほんとにこんな人だったのかどうかをあまり詮索する気もないが、どっちにしろ、なんだか人間の怖さを見た気がする。
ちなみにアメリカではゴールデン・グローブ賞のミニシリーズ・テレビ映画賞と同部門の主演男優・主演女優賞を受賞している。
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