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Sunday, April 06, 2014

映画『大人ドロップ』

【4月6日特記】 映画『大人ドロップ』を観てきた。

僕の好きな飯塚健監督だが、これは紛れもなく彼の生涯通じての代表作となるだろう。素晴らしい映画だった。

まず目についたのはカメラワーク。

冒頭の教室のシーンの最初のカットでは、教室の後ろから黒板を撮るのではなく、わざわざ廊下に出て微妙に斜めの角度から窓越しに教室の中の黒板の半分だけを撮っている。おっ、と思った。あまり見たことがないアングルである。

いや、別に全編を通じて特にアクロバティックな撮り方をしているというわけではない。ただ、カメラは片時もじっとしていない。役者に長い芝居をさせておいて、ゆっくりと動く。まるで心の揺れを表現するみたいに。

冒頭は模擬テストのシーンだ。登場人物に順番に答案用紙に名前を書かせることによって観客に説明をする。なかなか手際が良い。しかし、由(池松壮亮)だけは最初に名前を書かずにマークシートを塗り始める。こういう軽い裏切りで映画のリズムに変化を与える。

そして、時にはっとするような構図がある。校舎の入り口の下駄履をを挟んでわざわざ由と杏(橋本愛)の2人を分断した2ショット。カメラが引くと、その2人を上の廊下から見下ろす春(小林涼子)の後ろ姿。

由と杏を2人きりにして、飲み物を買いになだらかな坂を駆け下りる始(前野朋哉)の後ろ姿を上から見下ろし、テラスに立つ由とそこから何段か階段を降りたところにいる杏を縦に並べて正面から見上げる。

二間続きのアパートで、やはり敷居に分断されるみたいに、キッチンでお茶を淹れる杏と居間でそれを待つ由の2ショット。全てが暗示的である。お茶が入って、杏が運び、カメラが杏と一緒にパンする。

僕はこの辺りの運びを見ながら、ああ『放郷物語』の線だな、と思った。

そう、『放郷物語』と同じく、これも卒業を控えた高校生の恋の物語である。『放郷物語』に原作があったのかどうか知らないが、こちらは芥川賞候補になった樋口直哉の小説が原作である。

片思いがあり、頼まれて仲を取り持ってやる親友がいて、ダブル・デートがあって、行き違いから気まずくなり、家の事情で退学したり転校したりする奴がいて…。どこにでもある、そう、僕らにもあった高校生の日常である。

由や杏が使っているスマホや、始のラップを真似た喋り方などから、これが現代を舞台とした現代の高校生の物語であることは明らかである。しかし、僕らもこれを見て、もう何十年も前の自分の高校時代を思い出してしまう。

それはひとえに飯塚自身が手がけた脚本がよく書けているからである。青春の普遍性を見事に切り出している。

「瑞々しい」という表現は、文学や映像の宣伝文句として安易に使われるものであるが、本当に瑞々しいというのはこの映画ほど描けて初めて使って良い表現ではないかと思う。

そして、瑞々しいだけではない。瑞々しい/苦々しい、初々しい/青臭い、晴れがましい/痛々しい──そういう両面を見事に描いている。

台詞回しもストーリーも本当に見事としか言いようがない。何度かラストシーンをちらりと見せてカットバックする手法も巧い(編集も飯塚監督)。

タイトルのドロップもそうだけれど、ひとつひとつの小さなエピソードが効いている。例えば杏の父の後妻(香椎由宇)は最初のシーンで眼帯をしている。次のシーンでは杏が眼帯をしている。何の説明もないけれど、これは2人の関係性を物語っている。

ときどき主人公の由の語りが入る。由は「どっちだか分からない」とか「自分でも分からない」みたいなことをよく口にする。そう、青春時代ってそんな時代だったじゃないか。

4人の役者の中では、春に扮した小林涼子が特に素晴らしい。彼女はインタビューに答えて春のことを「大丈夫そうに見えて、大丈夫じゃない女の子です」と言っている。この正確な理解に沿って、彼女は奇跡のような名演を見せてくれている。

とても良い青春映画である。深く感動した。終わり方もすこぶる余韻が深く後口が良い。

宣伝予算が潤沢にない映画なので、客の入りは良くなかった。それもあって、多分2010年の吉田恵輔監督作品『さんかく』みたいに、世間的には僕が激賞するほどの高い評価は得られないかもしれない。

しかし、『放郷物語』『彩恋』『荒川アンダーザブリッジ』『風俗行ったら人生変わったwww』と、ずっと飯塚健を追いかけてきて(この4本とも映画館で観た人は、日本広しといえどもそうはいないだろうw)、漸く彼が認められる日が来たという実感がある。昔からのファンとしては誇らしい気分である。

ちなみに『さんかく』はその年のキネ旬では第21位だった。

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Comments

お久しぶりです。遅まきながら「大人ドロップ」観ました。
男子って優しかったんだなぁ…というのが、一番の感想です。不器用だけれど、優しい。
きっと“あの頃の私”の周りにも、そんな優しさがいっぱいあったと思うんだけど、自分のことに精一杯で、分かりやすい優しさ(受け取りやすい優しさ)にばかり目が行ってたように思います。

自分と付き合うのが一番むずかしかったあの頃の苦しい感じを鮮明に思い出す映画でした。
最後、文化祭の時に、ようやく由が告白してくれて、私まで泣いてしまいました。自分でもおかしいんですけど(笑)。
それくらい春ちゃん、上手でした。

今年も一年、ここの映画評(だけじゃないですけど)、楽しませていただきました。
来年も楽しみにしています。

Posted by: リリカ | Monday, December 29, 2014 20:40

> リリカさん

いつもどうも。わざわざこの作品を観て、しかも気に入ってくれた人がいるという事実が猛烈に嬉しいです。ありがとうございました。

Posted by: yama_eigh | Monday, December 29, 2014 22:02

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