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Saturday, April 19, 2014

映画『そこのみにて光輝く』

【4月19日特記】 映画『そこのみにて光輝く』を観てきた。呉美保監督は2010年の『オカンの嫁入り』以来。あの映画はあまり評判にはならなかったけど、僕は良い映画だったと思うし、キネ旬でもその年の第26位に入っている。

ただ、いつも監督で観る僕だが、今回の目当ては池脇千鶴である。ものすごく好きな女優なのである。脇として数多くの映画で目を瞠る演技を披露してくれているが、主役級となると今回は何があろうと見逃せない。

決して美人女優ではないので、「今テレビ・映画に引っ張りだこのイケメン綾野剛とどうして一瞬にして恋に堕ちるのか? そこのところに説得力がない」という人もきっといるだろう。

それは趣味の違いであるし、そもそも恋というものは周囲には説得力のないものであったりするのだから仕方がない。

でも、僕はスクリーンのこちら側にいながら、池脇千鶴が最初に出てきたシーンで、またしても恋に堕ちてしまった。

黒のスリップ姿、肩から覗くブラ紐はパープル。脇から背中にかけての肉付き。剥き出しの太もも。ドアを開けたら予期していなかった家族以外の存在に胸のボタンを探る。

『ジョゼと虎と魚たち』の頃の貧相な少女ではなく、アラサーの肉感的な体のラインが既に多くのことを物語っている。そして、表情だけで綾野剛に一目惚れしたことを観客に伝える。

最近では『さよなら渓谷』を手がけた高田亮の脚本がこれまた切れ味があって、池脇は綾野に2つだけ質問する。まず、「何してる人?」と職業を問い、そして「奥さんはいるの?」と。

この台詞だけで、池脇が綾野に惹かれたという事実と、彼女の性格、つまり、生きて行くうちに心の中に抱えてしまった屈折した部分もあるけれど、基本的に飾らない、単刀直入な女性であることを物語っている。

閑話休題。

いきなり細かいところに触れてしまったが、まず、設定と冒頭のストーリーを書こう。

達夫(綾野剛)はかつて石切り場で働いていたが、発破の事故でトラウマを抱えてしまい、今は仕事から逃げている。散歩とパチンコと飲みっぱなしの酒で一日を過ごしている。

その達夫がパチンコ屋でライターを貸したのがきっかけで拓児(菅田将暉)と友だちになる。やたら脳天気で人懐っこい拓児は「飯を食わせる」と言って、いきなり達夫を自宅に連れて行く。

海辺のボロボロのあばら屋。拓児の母・かずこ(伊佐山ひろ子)がいる。寝たきりの父・泰治(田村泰二郎)がいる。泰治は脳梗塞で不自由な体なのに、性欲だけは異常に強く、かずこに“処理”をせがむ。

話を聞いていると、拓児は仮釈放で刑務所から出てきたばかりであるらしい。

拓児が「姉ちゃん」と呼ぶと、そこにスリップ姿の千夏(池脇千鶴)が出て来て、達夫と見交わす(これが上記のシーンである)。そして、千夏はチャーハンを作る。

千夏は弟が世話になっている造園会社の社長で妻子のある中島(高橋和也)とドロドロの関係を続け、塩辛工場で働きながら、さらに場末のスナックで8500円で体を売っている。

パンフの台本には「8000円」と書いてあるが、(僕の記憶違いでなければ)映画の中では「8500円」と言っていた。その端数が何とも言えず哀しいではないか。

千夏は達夫に一目惚れだった。でも、「私なんか」という引いた思いがあって、あるところまでしか積極的な行動は取らなかった。でも、達夫は千夏の売春を知ってから底なしの恋に堕ちてしまった。

舞台は函館である。夏の海なのに、どんよりと曇って、水も冷たそうにしか見えない。映画は当然カラーなのだが、見終わって甦るイメージはモノクロかセピアである。千夏がやたらと赤いルージュを引くシーン以外、暖色の記憶がない。

撮影は山下敦弘監督の盟友であり、最近ではいろんな監督の下でものすごく印象的な画を撮りまくっている近藤龍人である。

今回も何でもないようでものすごい画を作っている。暗くて重くてシビアな画。

終盤の展開は予想するに難くない。こういう設定を収束させるのはああいう展開しかないだろう。そのある意味ありふれた展開にどうやって一条の光、救いを持たせるかが監督の力量である。

その一条の光がタイトルである。そこのみにて光り輝くのである。

ともかくやりきれない思いを描いた映画である。本当にやりきれない。生きて行くことのやりきれなさ、金を稼ぐことのやりきれなさ、人を愛することのやりきれなさ…。

古い映画を思い出す。人によってそれは、ヌーベルバーグであったり、もっと古い時代のフランスやイタリア映画であったり、アメリカン・ニューシネマであったり、日本の ATG であったり日活ロマンポルノであったり…。

今はすっかり都市化した日本、総中流化した日本人の中で、「そうだった。昔はこうだった」といろんな面で思わせてくれる映画である。結構シビアな映画である。

そして、今回役者陣の中では、2人の元・仮面ライダー役者のうちの若いほう・菅田将暉が驚くほど素晴らしかった。あの頭悪そうで人が良くて、単純で、正義感の強い、愛すべき人物を本当に巧く演じていたと思う。

役者・脚本・カメラ・演出が一体となった、極めて質の高い作品になったと思う。

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Comments

古い記事にばかりコメントをつけてすみません。
これもようやく観ました。この映画、あちこちで「暗い」、「救いようがない」と聞いていて腰が引けていたのです。
でも、この映画に限らずですが、周囲の評判がどうあれ、このサイトでyama_eighさんが評価していると「よっしゃ、いっちょ観てみよう」という気になるから不思議です。
とはいえ、腰を上げるまでにずいぶんタイムラグがあるので、いつも「遅まきながら…」という感じになるのですが。

この映画も、ここで記事を拝見していなかったら、きっと一生観なかったと思うのですが、観て良かったです。ほんと。ありがとうございます。
何がどう良かったか、ひと言で言い表わすのが難しいですが、最後の砂浜のシーンに朝日があたるところからエンドロールにかけて涙してしまいました。

Posted by: リリカ | Wednesday, August 12, 2015 15:12

> リリカさん
毎度どうも。僕の評価がどうこうよりも、この映画たくさん賞を獲った作品ですからね。良い物は良いのです(笑)
いずれにしても、そんな風に書いてもらえるとブログ主冥利に尽きるというものです。

Posted by: yama_eigh | Wednesday, August 12, 2015 22:15

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