ドラマW『人質の朗読会』
【3月16日特記】 WOWOW から録画しておいた『人質の朗読会』を観た。ドラマ化の話を聞いて、「へえ、これをドラマ化するか」と思った。原作を読んだ人の多くはそう思ったのではないだろうか?(僕の書評はここに書いた)。
これはしかし、原作をそのままドラマ化できる素材とは思えない。原作は南米で反政府ゲリラの人質となった日本人8人が、監禁された山小屋の中で、自分の経験を文章にして発表する朗読会の内容を章立てにしている。
ドラマにする場合、その8章(実はドラマでも映画でも、最後に別の1章が加わるのだが)を束ねる外枠のような、あるいは全体を串刺しにする何かが必要になってくる、と考えるのが一般的ではないか? 少なくとも僕自身はそう思った。
だから、拉致された山小屋での生活が少し描かれる。映画の冒頭を爆破されて粉々になった山小屋の瓦礫で始めたのはアイデアだなと思った。その瓦礫の周りをグルっと廻るカメラワークも印象的だった。
そして、小説にはなかった語り部として、人質たちの死後に手に入った朗読会の CD を放送するラジオ局の報道記者・中原(佐藤隆太)が設定される。
朗読の内容は当然再現ドラマになるのであるが、その外側に後日談のドラマが付け加えられ、人質の遺族が登場する。朗読した話の登場人物も出て来る。
例えば原作・第二夜「やまびこビスケット」の製菓調理師の娘や第五夜「コンソメスープ名人」の隣家のお嬢さん(今ではすっかり老人)などである。
(ちなみに製菓調理師は大谷直子が、その娘は波瑠が演じており、「やまびこビスケット」の中での若き日の製菓調理師もそのまま波瑠が演じている。これもアイデアだと思った)
そんな風に原作にいろいろと手を入れることに違和感を覚える読者もいるだろうが、しかし、やはりこんな風にしなければドラマは少し気の抜けたオムニバス作品のようになってしまうはずだ。
ただ、皮肉なことに、そういう風にシーンを増やすことによって、この小説を2時間のドラマ枠に収めることはなお困難になる。そもそも人質8人の一人ひとりの朗読に15分ずつかけてしまうと、「外枠」や「串刺し」の時間はなくなってしまうのだから。
だからドラマでは、原作では8人だった人質が6人に削られた上に、主婦(原日出子)と添乗員(三浦貴大)のストーリー(原作では第七夜「死んだおばあさん」と第八夜「花束」)は思い切って短縮されている。これは英断だったと思う。
しかし、これでもやっと収まったのはノーCMの WOWOW だからこそであり、2時間枠(正確には114分枠)でも実質100分以下になってしまう民放ではできないドラマ化だった。
さて、そんな風にして非常に手際よく原作を加工しているのだが、しかし、原作を読んだ者にとっては、観ているとやはり「そんな風に変えてしまうのはどうだろう?」「そんな設定付け加える必要があるか?」などと引っかかるところがどうしても出てくる。
中でも一番引っかかったのは、この8人のストーリーの中でも一番小川洋子らしい幻想的な作品である第二夜「B談話室」の作家を、このドラマでは実はかつて作家を志していたが結局は平凡なサラリーマンになってしまった(しかし、旅行中は作家を自称している)男にしてしまったことである。
これはドラマ化のテクニックとしては不要な加工ではないか?──と抵抗を覚えながら観ていたのだが、その作家を騙っていた男(長谷川朝晴)に妻(西田尚美)を絡ませた展開が、やがて作中作である「B談話室」と二重写しになり、これにはあっと驚かされた。
これは見事な脚色である。ドラマがものすごく深いものになった。
ちなみに脚本は杉原憲明という人。知らない名前だと思ったが、調べてみると『貞子3D2』の共同脚本を担当している。
監督は『時をかける少女』(仲里依紗主演)の谷口正晃である。
原作とドラマはある意味似て非なるものではあるが、ともにレベルの高い作品になっているし、伝えようとしていることも概ね同じであると思う。
原作をお読みになった方は、もし機会があればご覧になれば良いと思う。僕は悪くないと思った。
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