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Wednesday, March 12, 2014

映画『銀の匙』

【3月12日特記】 映画『銀の匙』を観てきた。

吉田恵輔監督は『机のなかみ』『純喫茶磯辺』『さんかく』『ばしゃ馬さんとビッグマウス』『麦子さんと』と、劇場用映画デビュー以来ずっと追っかけてきたが、今回初めて、オリジナル脚本ではなく原作ものを手がけたことになる。

で、今回は酪農ムービーである。『鋼の錬金術師』の作者がこんな漫画を描いてベストセラーになっていたとは知らなかったのだが、吉田監督自身が原作のファンであるとのこと。

この映画では人物造形はほぼ原作通りに、展開は少しアレンジして描いてあるらしい。

主人公の八軒勇吾(中島健人)は進学校の中学で落ちこぼれ、父親(吹石満)からのプレッシャーにも耐えかね、ただ全寮制であるというだけの理由で、逃げるように帯広の大蝦夷農業高校の酪農科に入学する。

札幌の都会育ちの甘ちゃんのもやしっ子が、肉体労働の厳しさや、食べるために育てるという「経済動物」の現実に直面して悩み、そして育って行く──という単純な話かと思ったら、微妙に違う視点も入れ込んである。

ひとつは酪農業の経営のしんどさである。僕らが知らない情報であり、こういう観点は僕らは持ち得ない。親の跡を継いで農業をやるなんて、何も考えることなくていいなあ、という勇吾のやっかみはここで砕かれることになる。

命の尊さ・ありがたさとか肉体労働の大変さ・大切さといったテーマではなく、経済性に焦点を当てたところにこの話の独創性がある。

もちろん、自分が世話した動物を食べるという葛藤も描かれるのだが、そこにぶつけてきたのはまさにそのものズバリ屠畜と解体のシーンである。

日本映画でこういうシーン(しかも『世界ウルルン滞在記』ばりの本物)が描かれるのは珍しいのではないか。いきなりドキュメンタリのインパクトがあり、ここで映画が締まった感じがした。

全般に青春ドラマなのだが、中島健人のヤワな、しかし生真面目な感じも良かったが、同級生の御影アキと駒場一郎を演じた広瀬アリスと市川知宏が素晴らしかった。特に広瀬は一つひとつの表情が良く、また可愛らしく、強く印象に残った。

さて、この映画は盛り上げるためにストーリー上の無理をしていないところが良い。

退学した駒場が学園祭のクライマックスに駆けつけて間に合う、という展開にはせず、八軒父子の劇的な和解に繋がるように見せておいてそこには行き着かない。

だから見ている最中はそんなに面白くはないのである。だが、「日常」というものを描く上では、劇的でないからこそのリアリティがあり、後口も非常に良いものになっている。

クライマックスは学園祭のばんえい競馬である。ばんえい競馬と言えば根岸吉太郎監督の名作『雪に願うこと』が思い浮かぶが、こちらはあくまで高校生の模擬レースなので、あの映画で描かれたような壮絶な美しさと緊張感はない。

だが、 馬に鞭を入れるスローモーションなどは充分に映像的な魅力を感じさせてくれた。

そのあとの勇吾とアキが手を繋ぐシーンなどもそうで、僕は大谷健太郎監督の『NANA』のシーンを思い出したのだが、何気ないところに表現としての盛り上がりがある。

普通高校と農業高校のギャップを見せつけて、もっと笑わせる映画かと思ったのだが、そうではなかった。中島先生(中村獅童)の「八軒は逃げることに対して随分否定的だなあ」というような良い台詞もあって、少し考えさせられたりもする。

結構地味な青春映画である。でも、そんなに貶す人はいないのではないかな。映画館から出てきたおばさん3人組が、「でも、まあ、割合面白かったなあ、爽やかで」と言っていた。そう、そんな映画である。

吉田監督はタイトルの付け方がいつも今イチだと思うのだが、今回ばかりは原作のタイトルであり、この小さなエピソードが却々効いていると思った。

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