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Monday, December 23, 2013

NHK-BSプレミアムドラマ『歌謡曲の王様伝説 阿久悠を殺す』(その1)

【12月23日特記】 録画しておいたNHK BSプレミアムの『歌謡曲の王様伝説 阿久悠を殺す』を観た。一色伸幸が脚本ということで大いに期待して観たのだが、ちょっと企画倒れな感じで残念だった。

着眼点は秀逸である。

僕は当時気がついていなかったのだが、阿久悠は1980年に半年間歌詞を書かなかったのだそうだ。そのブランクの期間に彼は小説『瀬戸内少年野球団』を書き(もちろんこの小説は知っている)直木賞候補になったが選に漏れた。

阿久悠が文藝春秋社から「今回の直木賞は該当作なし」との連絡を受けた日、彼は食事をしていた料亭から、マネージャーが呼んだタクシーには乗らず、「少し歩くよ」と言って夜陰に消えた。

その夜彼がどこにいたのか、当時のマネージャーもいまだに知らないという。──ドラマはその一日に目をつけた。

その夜阿久悠は、ふと紛れ込んだ場末のスナックで、次から次へと客に絡まれる(と言っても必ずしも敵対的に話しかけられたわけではない)。そして、その会話を発端にして、阿久悠の人物像や、当時の彼の心情を描こうという企画である。

発想としては大変面白かったのだが、結果的には無理やり阿久悠の作品を幾つか織り込んでドラマにしたみたいなトリッキーで不自然な、かつ頭でっかちな感じのドラマになってしまった。

そもそもそこで語られることがあまりに図式的で凡庸である。確かに阿久悠という人は「斬れる表現」のできる人ではなかったが、だからと言って、こんな安っぽいドラマにしてしまうのはいくらなんでも可愛そうだと思った。

「歌謡曲の王様」という(多分わざと持ってきた)下世話な表現とか、「阿久悠を殺す」という力の入りすぎたタイトルとか、その辺りにも少し浅薄なイメージを、僕は感じ取ってしまった。

阿久悠は洒落た言い回しで気を惹く作詞家ではない。設定と企画・構成の力で物語をドライブして行く作家であった。

そういう阿久悠の詞の成り立ちや色合いについて充分に掘り下げることなく、ただ1980年のブランク以降作風が変わったとだけ指摘して幕を閉じるのは如何にも食い足りない気がした。

それから変だったのは、ピンクレディーの2人や岩崎宏美など、ゆかりの歌手たちの現在のインタビューが挿入されること。

もちろんドキュメンタリとドラマを組み合わせることは全然悪くないのだが、これが一旦ドラマの中でスナックのテレビ画面として映しだされてから、トリキリのインタビュー画面に変わる。──こういう演出に何の意味があったのかは不明である。

ただ、阿久悠を吹越満がやるというこのキャスティングは非常に良かった。顔もちょっと似ていなくもないということもあるが、阿久悠の疲労感をよく表していた。

そして、改めて思ったのは、スナックのママを演じたミムラってやっぱり良い女優だということ。僕はこの人を見るたびにそう思うのだが、その後すぐに忘れてしまい、次に見た時は「この女優誰だったっけ?」から始まって、結局「やっぱり良い女優だ」と思うのである。

さて、ひょっとしたら、このドラマで描かれている阿久悠は当時の実際の阿久悠に非常に近いのかもしれない。ならばそれはそれでドラマとしては成功である。

しかし、このドキュメンタリー・ドラマは阿久悠の作品をまるで語りきれなかったなあというのが、まさに阿久悠の作った歌とともに青春時代を過ごし、大きな作詞家として彼を尊敬している僕の率直な感想である。

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