回顧:2013年鑑賞邦画
【12月28日特記】 今年も恒例の「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい邦画10本」を書いてみる。
毎年註釈をつけているように、これは僕が一番信頼を寄せているランキングである「キネマ旬報ベストテン」の、「10位内」ではなく「20位以内」に、「入るであろう」ではなく「入ってほしい」、「外画」ではなく「邦画」10本である。
今年見た邦画は、7月にグランフロント大阪で開催された SHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA 2013 in OSAKA で観た短編2作を含めて、全部でちょうど50本である。
見たかったのに見逃した映画は毎年あるものだが、今年の痛恨は大根仁監督の『恋の渦』。マークしてたのに上映期間が短くて、見に行くタイミングなかった。
褒めている人が多いので、これはベストテンに入ってくるのではないかと思うのだが、それだけになおさら残念である。
さて、いずれにしても見ていないものについて語ることはできないので、僕が観たものの中から、愛情を込めて推したい作品を10本選んでみた。
これも毎年書いていることだが、上記は僕の鑑賞順であって、番号と評価は関係がない。
最初、何も考えずに選んだら16本になった。それで、最初から「落とす候補」印をつけておいた『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』『舟を編む』『図書館戦争』『箱入り息子の恋』『もらとりあむタマ子』を外した。
問題はあと1本どれを落とすかで、結構悩んだ末に『みなさん、さようなら』を外した。僕は中村義洋監督のファンだが、彼の今までの作品の中では必ずしも上位に来る作品ではないかもしれないと思ったから。
結果的には、僕が選んだにしては割合オーソドックスなものになったのではないかと思う(なんて言ってたら、キネ旬が全然選んでくれなかったりするんだろうけどw)。
いずれにしても、単にストーリーや役者の演技だけではなく、しっかりと映像的な見どころのある作品ばかりになっているのではないだろうか。
1)は「引き画の廣木隆一」の真骨頂とも言える映像作品ではなかったか。言葉にできないものを映像で表すという、まさに映画ならではの作品になっていたと思う。宮﨑あおいと向井理の魅力も全開であった。
2)は沖田修一監督による、見事にデザインされた映画。この人は多分、撮る前からかなり絵が見えているんだろうな、と思う。そして、前田司郎による、この愛すべき脚本! 高良健吾と吉高由里子も非常に良くて、心に残る作品になった。
3)は僕の周りでは何故だかえらく評判の悪かった映画だ。僕が絶賛すると皆不思議そうな顔をしたが、僕にしてみたら、この映画を褒めないことのほうが不思議。これこそ圧倒的な黒沢清ワールドである。
ゆっくりと動くカメラが怖い。そして、どんでん返しも「やられた!」って感じだった。この濃密な映像は黒沢清監督でなければ決して描きえなかったと思う。
4)も今年を代表する映画だと思う。大森立嗣監督の最高傑作だろう。そして、女優・真木よう子のキャリアを代表する作品にもなった。ストーリーと言い、映像と言い、痛々しくて愛おしい、人間というものを考えさせられる映画である。
5)は普段あまり宮﨑駿を観ようと思わない僕が、珍しく観る気になった作品である。何と言っても、アニメとしての表現力の豊かさに圧倒された。リアルなものとリリカルなものが、同じ1枚のセルの中に表現されている。
主人公・堀越二郎の生き方が是か非かというようなことに引っかかってはいけない映画だと思う。この複雑な生き様をとりあえず丸呑みしてみるべきではないだろうか?
6)もまた、今年の1位を争う映画だと思う。青山真治監督って、やっぱりタダモノではないのである。この見事にコントロールされた脚本(荒井晴彦)とカメラワークを見よ! 匂いや空気の淀みや湿気までしっかりと伝わってくる。
描かれるのは血と精液である。こんな映画、他の監督に撮れるか?
7)はまあ、みんな選ぶ映画だろうからあまり僕が書く必要はないかな。余韻の残し方はやっぱり巧いよね。観客に目一杯の自由度を残してくれるフェアな映画である。
ただ、映画を観た日から何日か経って振り返ってみると、結局僕はこれが是枝裕和監督のベストだとは思っていないことに気づいた。
8)は初めて見た監督・白石和彌の作品。もう、タイトルそのものの映画。しかし、この怖さは残虐なシーンの怖さではなく、人間の心に巣食う得体の知れないものの怖さである。
白石和彌と高橋泉の共同脚本にものすごい斬れがある。ともかくリリー・フランキーが怖い。
9)もとても良い映画。原作の巧さもあるが、そろそろ三木孝浩という監督を世間が評価するべき時期が来ているのではないかと思う。全体のトーン・コントロールは見事である。
菅野友恵と向井康介の脚本も実に手だれ! そして、上野樹里の魅力全開。もちろん上野本人の力量によるところが大きいのだが、こういう風に女優を魅力的に撮るところも監督の巧さのひとつである。
10)は今年の拾い物。いつもちょっと観客に対して悪意をぶつけてくるタナダユキ監督だが、今回は人の弱さ、醜さに(少しあざとかったかもしれないが)救いを用意して、愛おしい愛おしい映画になった。
以上が僕がベストテンに入ってほしいなと、ひたすら応援する映画である。
こうやって振り返ってみると、今年は良い映画が目白押しであったと思う。新しい監督による度肝を抜くような作品というのは少なかったが、中堅・ベテランが遺憾なく実力を発揮した。
日本の映画界はとてもレベルが高いと思い知らされた1年だった。
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毎年日本インターネット映画大賞に投票頂きましてありがとうございます。今年も20日より投票が開始しましたので概要(http://www.movieawards.jp/)を読んで頂きまして締切の1月16日までに投票のほどよろしくお願い致します。
Posted by: 日本インターネット映画大賞 | Sunday, December 29, 2013 04:16