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Sunday, November 10, 2013

映画『四十九日のレシピ』

【11月10日特記】 映画『四十九日のレシピ』を観てきた。

タナダユキは結構意地の悪い映画を撮る監督である。人の弱いところ、間違った態度、ちゃんとできないこと、そういうもろもろを皮をめくって見せるようなところがある。

ところが今回はタイトルからしてなんか「いい話」っぽいのである。大丈夫かな、と思っていたら、映画が始まった瞬間から永作博美がブチ切れている。石橋蓮司も大声で怒鳴っている。──それでこそタナダユキ、と妙なところで納得してしまった。

で、この2人が親子であることが分かる。高岩百合子と熱田良平。

百合子は不妊で悩んでいるところに見知らぬ女から電話がかかって来て、百合子の夫の浩之(原田泰造)との間に子供ができたから別れてやってくれと言われる。

良平が怒っているのは回想シーン。妻のオトミ(「お富」かと思ったら、後に「乙美」であることが判る)の作ったコロッケ・サンドの弁当箱からソースが漏れていたという、こちらは他愛ない話である。

ところが、その乙美は突然死んでしまった。良平は何もする気になれず寝っ転がっている。

離婚届に署名捺印し、その上に結婚指輪を置いて、百合子は良平の住む故郷の川沿いの家に向かう。百合子にとっては死んだ乙美は継母だった。

その頃突然ゴスロリ・ファッションに身を包んだ脳天気でウルトラ・ハイテンションの若い女・井本(二階堂ふみ)が良平の家にやって来る。乙美に頼まれていたからと部屋の片付けを始める。乙美が書いていた大判のカードの束を見つけ出す。

そこにはあらゆる家事のやり方や料理のレシピなどが絵入りで書いてあり、「四十九日のレシピ」もそこにあるが、盛大な大宴会をするとだけあって、メニューも何も書いていない。

自ら「イモと呼んで下さい」という井本は良平に有無を言わせず、てきぱきとあらゆるものを片付け始め、遂には良平を風呂に入れて背中を流している所に百合子が返ってくる。

イモは、乙美がボランティアをしていた施設の出身者で、セックス依存症でそこに入れられて乙美と知り合い世話になったと言う。49日分のバイト代ももらっていて、四十九日の大宴会まで毎日通うと言う。

ここら辺りまでのことを冒頭の15分か20分ぐらいで非常に手際よく説明してしまう。

そこへ、良平の姉の珠子(淡路恵子)がやって来る。これがまたけったくそ悪い糞ババアである。世俗的な固定観念にコリコリに凝り固まった糞ババアは、百合子に夫のもとに帰れとか、早く子供を産んでおけば良かったのになどと言いたい放題である。

さて、最初はそんなことはやらんと言っていた良平が、いろいろあって四十九日の大宴会をやろうと言い出す。その準備の力仕事を手伝うため、今度はイモがハル(岡田将生)を連れてくる。同じ施設の出身の、日系3世のブラジル人。

これまたイモに輪をかけた脳天気&ウルトラ・ハイテンションだが、彼もまた来日間もない頃に職場で苛められ、ひきこもりになっていたところを乙美に助けられたと言う。

単純にいい話に思えるかもしれないが、良平も百合子も決して良い所ばかりには描かれていない。勝手な思い込みや一時の気の昂ぶりから、何度もひどいことを言って周りを傷つけたりもした。

百合子の夫の浩之も、浩之の子を宿したという女も、どうしようもないサイテーの野郎である。そういう不完全でひどい人と人がどうやって折り合いをつけて行くかというドラマである。

元は落ちこぼれであったが乙美に救われたイモとハルだけが、ここでは天使のような役回りになっているが、天使に生まれ変わるためのしっかりした設定で支えてある。

ともかく黒沢久子の脚本が抜群に巧い。練りに練ってある。台詞も良いし、話の流し具合も絶妙である。川に意味を持たせ、紙切れに息吹を与え、自動車に意味を込めている。見ていて何度も落涙しそうになった。

そして、良平と乙美の若いころを演じた中野英樹と荻野友里がこれまた素晴らしいのである。美男美女でもなく、何かの達人でもない凡人が、精一杯生きる中で惹かれ合って結婚するまでを本当に丹念に演じている。

お見合いを断られた乙美が良平の家を訪ねて、百合子のために作った紙の着せ替え人形を渡す。それだけで引き上げた乙美だったが、良平が思い直して追っかける。

2人で川沿いにバス停まで歩く。橋の上で良平が歩を止めるが、乙美は2、3歩余計に歩いてから歩を止めて振り返る。それまで画面の中央に映っていた2人の間に中途半端な間が空き、ちょうど画面の両端に2人がいるショットになる。

──緻密に計算された、とても美しいシーンだった。

四十九日当日のエピソードは少し「いい話」にし過ぎた感じはあったが、しかし、そういう不自然さを超えて胸に迫るものがあった。

ラストのエピソードもまた非常にリアルである。インチキ臭いハッピーエンドには持って行かない。だが、不安な再出発の中に仄かな希望はある。この辺りがタナダユキの真骨頂と言えるだろう。

愛おしい愛おしい作品になった。間違いなくタナダユキのベストだと思う。ひょっとしたら、今年観た映画の中でもベストかもしれない。

淡路恵子がどこかの助演女優賞に選ばれないかな、と思う。圧巻だった。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

ラムの大通り

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