食史
【10月15日特記】 最近食事をしているとよく昔のことを思い出す。「ああ、昔はこんなもの食べられなかったなあ」「そうそう、これも嫌いだった」等々。
僕はとても好き嫌いの多い子だったので、そういうものがたくさんある。その大部分は克服して、いや、今はむしろ好きだったりするのが面白い。
刺し身は何も食べられなかった。漬物は梅干し以外は食べられなかった。特にきゅうりやナスの深漬けは最悪だった。
一般に子どもたちに不人気の椎茸や人参はそうでもなかったのだが、ワカメもトマトも嫌いだった。妻は小さい頃からトマトが好きだったと言う。ワカメも好きだったと言う。そして、彼女は今でもトマトとワカメが大好きだ。
そういう変わらない人生というものがあるんだなあと思う。そして、その2人が今同じものを口にして、異口同音に美味しいと言うのがおかしい。
蕗(フキ)も、なんでこんなものを食べるんだろうと思った。それは妻も同じことを思ったと言う。
久しぶりに食卓にカリフラワーを出して、妻が言った。「私ブロッコリーを初めて食べたのは高校に入ってからだった」
そう、確かに僕らはブロッコリーより先にカリフラワーを知った。
カリフラワーは食卓に出たがブロッコリーは出なかった。あるいは、ひょっとするとブロッコリーは高くて買えなかったのかもしれない(我が家は貧しかったので、そういう可能性も否定できない)。
初めて缶詰でないパイナップルを見た時の驚き。そして、食べてみて、その硬さと酸っぱさにもっと驚いたこと。
グレープフルーツは半分に切って砂糖をかけて食べると教わった日。母が「イタリアのお好み焼きや」と言ってピザを買ってきた夜。
新規な食べ物がどんどん現れて、いろんなものを試すうちに僕の偏食も矯正されてきた。
そんなことを語らいながら、最近妻と食事をするのが楽しくなってきた。何を食っているかではなく、何を話しているかが重要な部分になってしまう──そんな僕はグルメとは程遠い存在なのだろう。
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