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Saturday, September 28, 2013

映画『そして父になる』

【9月28日特記】 映画『そして父になる』を観てきた。よくこんな脚本が書けたと舌を巻いた。

同じ病院で出産した2組の夫婦の子供が取り違えられた。そして、その男の子たちが小学校に上がる半年ほど前にそれが発覚した、という設定である。

この設定自体は別に凄いというようなものではない。ただ、その設定の中に放り込まれた人物が、ひとりひとり本当に見事に書き込まれ、読み込まれ、そして、作者の手を離れひとりでに動き出しているのである。

一方の夫婦は大きな建築事務所の設計士と元社員が社内結婚で結ばれたカップルである。これを福山雅治と尾野真千子が演じている。最初に書いてしまうと、尾野真千子がありえないくらいに巧い。

金持ちである。スカイツリーの見える大きなマンションに住んでいる。子供にピアノを習わせ、有名私立小学校のお受験に挑んでいる。夫には良い意味でも悪い意味でもプライドがあり、そのプライドに沿って今日まで頑張ってきた。

他方は田舎町のさびれた電器店を営む夫婦である。これをリリー・フランキーと真木よう子が演じている。真木よう子もべらぼうに巧い。夫のほうだけ少し世代を上にしてあるところがミソである。

こちらはつましい生活である。時々「つましい」どころか「さもしく」なる。他にも子供が2人いる子だくさんである(こちらの夫婦だけ他にも子供があるという設定も後々よく効いてくる)。

夫はぐうたらして、妻はたまにカリカリするが、それでも仲睦まじい夫婦であり、家族である。

この4人のメインの登場人物を、最初に一体どこまで綿密に設定したのだろう。ともかくよくもここまでリアルに描けたものだと驚くのである。

それぞれの生い立ちや経歴、性格、夫婦関係のあり方、食生活、仕事の忙しさ、余暇の過ごし方、家訓、人生観、コンプレックスの在処、不満、喪失感、愛情の表現方法──全てがリアリティを伴って、登場人物の言動としてスクリーンに現れるのである。

取り違えた病院の院長が最初のほうで、如何にも他人事らしく「こういうケースは皆さん100%子供を交換します」と断言する。当然観客は「そんな簡単に行くものか」と思う。

そして、そりゃそんなこともあるだろう、あんなことだって考える必要がある、などと思うことを、ひとつひとつ2組の夫婦と子どもたちが映画の中でやってみせてくれる。引きこまれた僕らは、映画が終わって照明がつくまで、全く眼が離せない。

そこに尾野の母親役の樹木希林、福山の父親と後妻役の夏八木勲と風吹ジュン、福山の勤務先の同僚役の井浦新、福山の大学の同級生の弁護士役の田中哲司など、ものすごく実力のあるキャストが絡んでくる。そして、他にも高橋和也や中村ゆりなど、僕の好きな役者ばかりが出てくる。

それぞれの夫婦における妻と夫、そして妻同士、夫同士というそれぞれの対照がユーモラスなほど鮮やかに描き出されて、しかも、誇張がない。そこがこの脚本の一番見事なところである。

途中、「琉晴は私に似たんだわ」という台詞にどきっとさせられる。いろんな台詞が後のシーンに繋がっており、台詞回しは本当に達者である。

さて、誰しもいきなりは父にならないし、なれない。いろんなことがあって「そして父になる」のである。福山が演じた良多は、そしてフランキーが演じた雄大は、無事に父になれただろうか?

そしてこうなりました、という終わり方をこの映画は採らない。この先どうなるんだろう、と観客は考える。観客にものを考えさせる映画は良い映画である。

自動車が走る高速道路であったり、人が散歩する土の道であったり、さまざまな道が、この映画の中で記憶に残る風景になっている。普通なら固定で撮るところ、ほんの少しだけカメラが横に流れているという手法も印象に残った。

是枝裕和監督の作品を映画館で観るのはこれが7本目である。『歩いても 歩いても』と『空気人形』とこの映画、僕の中で優劣をつけられずにいる。

3本とも2000年以降の日本を代表する名作だと思う。

ただし、リリー・フランキーの気持ちの悪い出来損ないの関西弁だけは余計だった。これも福山がフランキーに対して感じる違和感の表現だったのだろうけれど、あそこまでアクセントがおかしいと、我々関西人は別の違和感を持ってしまう。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

ラムの大通り
soramove

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Comments

ぼくもこの映画の後、
彼らはどうするんだろう?と、
心の中がざわつきました。
実は、あの再会のシーンで
子どもがあのような態度に出るというのは
まったく読めず、
自分にはかなり衝撃的でした。
『誰も知らない』では貧困の中で両親に放っておかれた子ども、
『そして父になる』では何一つ不自由のない暮らしをしながら
まったく違う環境に追いやられた子ども。
この映画は、
タイトルのせいか、福山雅治の立場で観られる方が多いようですが、
視点を変えて子どもの立場から見ると、
結局は、同じことを言っているのではないかと言う気がしてきています。

Posted by: えい | Tuesday, October 01, 2013 at 23:25

> えい様

「視点を変えて子供の立場から見る」ということ自体が視点の、と言うか、発想の転換ですね。なるほどと思いました。

しかし、それにしても、お互いのブログのコメント欄で2つの話題が並行して走ってる、って、とっても面白い現象だなと思います。ブログならではの楽しみ方ですよね。

Posted by: yama_eigh | Wednesday, October 02, 2013 at 10:09

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