映画『許されざる者』
【9月14日特記】 映画『許されざる者』を観てきた。観客の中には当然クリント・イーストウッドの『許されざる者』(1992年)を観た上でこの翻案を観に来ている人も多いのだろうが、僕は観ていない。
従って、新旧の、あるいは日米の比較のようなことは書けない(まあ、観ていたとしてもどうせきれいに忘れているから、どっちにしても書けないのだけれど)。
しかし、それにしても元の映画もこんな映画だったの?と、ちょっと不思議に思う映画だった。
申し訳ないけれど、僕には登場人物に共感できない、と言うか、感情移入しにくい、と言うか…。
何故もう殺さないと決めていたのに賞金稼ぎに加わったのか、そこまで決心したのに何故突然怯むのか、そしてどうしてまた立ち直れたのか、要所要所の場面での心の動きがきっちり説明できておらず、説得力がないのである。
元の映画がどうであったのかは知らないのだが、娯楽活劇にしようという気はまるでないらしい。それはそれで別に良いのだが、僕は観ていて「どうだ、すごいだろ」「感動の巨編だろ」と言われているような気がしてならなかった。
だから少ししらけてしまった。
この企画の元々の発案者は李相日監督自身で、脚本も監督自身が手がけている。西部劇を明治維新直後の北海道に置き換えるというアイデア自体は秀逸だと思う。そこにアイヌという少数民族の問題を絡ませたのも如何にも李監督らしい作り方だと思う。
そして、キャストが圧倒的に素晴らしい。
一度は人斬りをやめたが、子供を養うこともできない貧農の暮らしから抜け出すために賞金稼ぎに加わった十兵衛に渡辺謙。十兵衛を誘いに来た昔の仲間・金吾に柄本明。その2人に無理やり加わった若者・五郎に柳楽優弥。舞台となる北海道の村を専制的に支配する警察署長・大石に佐藤浩市。
客に顔を切り刻まれた若い女郎・なつめに忽那汐里。それを見かねてみんなで金を出し合って犯人の首に賞金を掛けた女郎・お梶に小池栄子。なつめの顔に斬りつけた旧仙台藩士に小澤征悦と三浦貴大。女郎屋の亭主に近藤芳正。
大石に闘いを挑む旧長州藩士に國村隼。その腰巾着の作家に滝藤賢一。
ここまで誰をとっても飛び抜けてうまい役者ばかりである。
今回は特に忽那汐里と小池栄子の2人の女優が良い。そして、見慣れぬボサボサの長髪と髭面のためエンド・クレジットが出るまで誰だか解らなかった柳楽優弥は、この映画で明らかに一皮剥けた感じである。
撮影はベテランの笠松則通である。日本にもまだこんな茫洋とした荒野があったのかと驚くようなロケ地で、これまた圧倒的な画を撮っている。
それだけに脚本が惜しい気がする。もう少し組み立てなおしたら、観客を釘付けにできたのではないだろうか? 僕は話が大きな展開を迎えるたびに「なんで?」と首を傾げながら観ていた。
いつか機会があったら、名作と言われる元の映画を観てみたい。
Comments