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Sunday, September 29, 2013

『昭和ことば辞典』大平一枝(書評)

【9月29日特記】 なんとなく宣伝文句に釣られてネットで買ったものの、本が家に届いて開いてみた瞬間に「しまった!」と思った。どうも思ったほど面白そうな本ではなさそうなのだ。

昭和10~40年代の日本映画のセリフの中から蒐集したと言うのだが、まあ読んでいる僕の年代のせいもあるのだろうけれど、ここに採録されている昭和ことばで、僕が知らないものがないのである。きれいさっぱり忘れている表現も少ない。だから読んでも驚きがない。再発見もない。

はて、困った本を買ってしまったものだと嘆きつつも、一応最初からページを繰っていくと、いやなに、これが却々棄てたものではなかった。

著者が言葉を拾い集めている姿勢が楽しいのである。いきなり目次のところに「言葉が火に油を注ぐこともあるのでご注意ください」云々の注意書きがある。その通りである。そして、冒頭にわざわざそんなことが書いてあるところに、著者の良識と茶目っ気の両方が感じられる。

中盤には「昭和と言っても64年もある」との記述もある。自分が立ち向かうには対象が大きすぎるとも読めるし、断定してしまう人は心が狭すぎるとも読める。この辺が面白い。

掲載されているのは、結局ただ一語「ボリサ」(=サボり)を除いて、全部知っている言葉だったのだが、それらをなぞっているうちに、いつの間にか自分も著者と同じ真髄に迫ってきた気がするから不思議だ。あとがきまで読めば明らかなように、この人が伝えたかったのは昭和の心遣いなのである。そういうことに気づき、そして昭和の心のあり方を思いだした。

昭和のことばの略し方も甦ってくる。「おめがねにかなう」を「おめがねの」、「骨が折れるでしょう」を「骨でしょう」などと言う。「とても」「非常に」「恐ろしく」など、いろんな意味での強調を全部「ばかに」で済ませてしまう。「おっしゃいよ」「いいこと?」など女性の表現が皆一様に柔らかい。僕も昔の映画で「あら、○○じゃなくってよ」という台詞を聞いて感銘を受けたことがあったが、つまり、心遣いが形になると人当たりの良さになって現れるのである。

などと考えながら読んでいると、伊藤ハムスターの挿し絵とキャプションの面白さも手伝って、リズムに乗ってくる。あっという間に読了である。

著者の大平一枝は、「このなかのひとつでもふたつでも、どうぞ思い切って日常にとりいれてみてください」「その場の空気がふっと丸く、やわらかくなるはずです」などと大まじめに書いているのだが、存外それは名案かもしれなくてよ、などと思う読後である。

(ところで、わざわざ書くまでもないが、この本は引くための「字引き」ではなく、読むための「読み物」である)

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Comments

昭和30年代、東映映画なんかで、
悪漢に絡まれた武家娘が、「慮外な。手は見せぬぞ」
と言うセリフがちょくちょくあり、当時映画館で僕は
心の中で「手なんか見たかないわい」とつぶやく。
と、悪漢役の俳優も「そんな手なんか見たかねえや」
と詰め寄ります。まぁ、お芝居の常套句ですね。
これは「抜く手も見せず切り捨てるわよ」の意味なのは
わかっているのですが、「抜く手」の「抜く」を抜き
あまつさえ「切り捨てる」も切り捨てられている。
今の若い人にはここまで省かれると
意味が分からなくなるケースかも知れません。
もちろんこれは暴漢に対して
直接的な言葉を廃した心遣いではないのでしょうが
昭和の時代が生み出した時代劇のセリフなのでしょうね。
「おう、ジタバタするねぇい、日照り続きで埃が立たぁ。」
昔、会社がバタついてる時、言ってみたくなったことがありました。
今は「倍返し!」でしょうか。でも番組終了1週間たって
もう消えそうなセリフになっています。

Posted by: バイロン | Sunday, September 29, 2013 at 10:30

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