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Sunday, August 25, 2013

映画『タイピスト!』

【8月25日特記】 映画『タイピスト!』を観てきた。

普段観るのは大部分が邦画、時々アメリカ映画という暮らしをしていると、たまにフランス語圏やスペイン語圏の映画を見ると、映画文法の違いにはっとすることがある。

例えばこの映画では、「え、このシーンはこんなに早く打ち切って、次のシーンで結果を説明すんのかい?」と思うようなところが何箇所もあった。ローズが秘書に採用されたところも、国内のタイプ早打ちコンテストで優勝した時も。

いろんな国の映画を見る楽しみは、やはりそういう文法の違い、リズムの違い、そして色彩の違いが大きな3つの柱かなあと思う。そして、この映画ではそのいずれもが感じられた。

単純なストーリーである。

フランスの片田舎で父親の雑貨店の店番をして暮らしていたローズ(デボラ・フランソワ)が、唯一の取り柄であるタイプの早打ちをアピールして、ルイ(ロマン・デュリス)が一人でやっている小さな保険代理店の秘書に採用される。

今のところローズは人差し指2本でしか打てないのだが、ルイはそんな彼女の才能を見ぬいて、10本打ちに矯正させた上でコンテストに出させる。ルイの特訓に耐え、才能を開花したローズはやがて世界大会を目指す。

書いてしまって構わないと思うので初めに書いてしまうと、ハッピーエンドである。このトーンでそれ以外の決着をつけられる映画作家がいたら、それは天才だと思う。

しかし、ルイのローズに対する屈折した想い(これが僕には却々すんなりと入ってこなかった)が、「ローズに優勝させたい」と「ローズを自分のものにしたい」の間で揺れるという設定が、ストーリー自体を揺らせている。

僕にはどちらかと言うと、ルイのかつての恋人であり、今では親友のボブ(ショーン・ベンソン)の妻になっているマリー(ベレニス・ベジョ)のような感情表現のほうがよほど分かりやすいのだが、でも、映画を見終わって、「ああ、こういう愛の形もあるんだなあ」と思わせてくれたから、それはそれで映画の勝ち、である。

1950年代終わり頃という舞台設定なので、少し古風な感じがあり、古き良き大陸的なリズムとかムードとかいったものが漂っており、いかにもロリポップなカラーと音楽がそこに絡まってくる。この辺りは時代を感じさせるところである。

しかし、一方でローズがタイプを一心不乱に打っているとブラの肩紐が見える、突然の雨に濡れて乳首が透ける、「今は1959年なんだから、結婚まで取っておいたりしない」みたいな台詞を言うなど、性的な部分も観客に対してアピールしており、これが新しい時代の新しい女性を感じさせる演出になっている。

ふんだんに使われるさまさまな種類の音楽は、その選曲も入ってくるタイミングも絶妙で、いい感じである。

タイピングの速さを感じさせるためのアクションやカメラワークにも工夫があって面白かった。

クライマックスで活字のアームが絡まるシーンを見て、「そうそう、よくこんなトラブルが起きた」と思ったのだが、多分僕はタイプライターを知っている最後のほうの世代で、しかも、ある程度頻繁に英語を打つ機会があった人にしか、このシーンは共感が得られないのか!と何だか映画に対して妙な親近感を覚えた。

脚本も書いたレジス・ロワンサル監督は、当然タイプライターなんて知らない世代で、ドキュメンタリ映画で早打ち大会の存在を知って、この映画を企画したと言う。

その発想の豊かさに敬意を評したい。非常に読後感の良い爽やかな映画だった。

ある種、すわフランスがアメリカに勝つか、という映画なのだが、そういう気負いが全くないのが良い。Business for America, love for France というのは粋な台詞だった。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

soramove

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Comments

映画文法」ていい表現ですね。「映画手法」とか「映画描法」
じゃなくて映像媒体を文章で表現するという「ことば」そのもの
にこだわりがおありなのでしょう。
ならば、映画『タイピスト!』を観てきた。
より映画『タイピスト!』を読んできた。というほうがピタッと来ます。

僕はブログ筆者さんほど、まめに映画館に足を運ばないのですが、
普段観る映画は、カンフー映画、続いてミュージカル映画
そしてインド映画ですね。
フランス映画は去年だったか「最強のふたり」で
その前は「アメリ」なのでなんと10年に1回ぐらいしか見ていない(笑。

うちには欧文・和文の古式蒼然としたタイプライターが有ります。
なぜあるかといいますと
むかし、電話網さえ十分でなかったころの通信手段は
ご存知のように電報でした。
NTTが電電公社の時代、特使配達員(局からのエリアでは遠隔地で配達に行けない地域の請負者)として局からの通電をタイプして配達しておりました。
(そういう時代があったんですよ)
今はもうタイプライターは、もう楽器じゃないかとさえ思うんです。
現に、コンサートでも、色んな映画でも使われていますよね。
西洋ではタイプライターは実用歴史が長かった。
日本でも西洋ほどではないにしても
独自に和文タイプライターも
しばらくは使われていましたが
ワープロからやがてパソコンにと
洋の東西を問わず本来の役目を終えてしまいました。
でもこの打鍵音!とても好きなんですよ。
パソコンのキーボードでもソフトウェアで
タイプライター音を出せますが打鍵の感触までは味わえない。
打楽器と言うか指先のタップダンスのよう。
実際タップを踏みながら、タイプライターを奏でる人もでてくるかもしれません。
言葉の文法が違えば、そこから生まれるリズムも違う。
そして派生するバックミュージックのリズムも違えば
被写体の色彩感覚も違って見えてくると言うのは
非常に納得のいくところです。

Posted by: バイロン | Monday, August 26, 2013 at 14:40

> バイロンさん

思いの籠ったコメントをありがとうございます。
そうですね、タイプライターの音は音楽ですよね。リズムと響きとアクセントがあります。映画のエンディングでもタイプライターを楽器に使った音楽が流れてましたね。

Posted by: yama_eigh | Monday, August 26, 2013 at 16:13

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