映画『SHORT PEACE』
【7月20日特記】 映画『SHORT PEACE』を観てきた。ひねりの効いたタイトルである。客もよく入っていた。
僕はアニメーションに詳しいほうではないが、こういう超一流のクリエイタによるアニメを見るたびに、表現力というものの底なしの深さにため息をつくのである。
これはもう見事な映像芸術である。で、また、パンフレットがやたら高価だが、その値打ちがあるすんばらしい代物である。是非買うべし。
森田修平、大友克洋、安藤裕章、カトキハジメの4監督によるオムニバス。いや、それに森本晃司監督による素晴らしいオープニングがついている。
通しのテーマは日本、江戸時代。ただし、最後の『武器よさらば』だけは同じく東京が舞台だが、時代は未来。大友が『AKIRA』よりも前に発表した伝説的な名作をカトキハジメが映像化したもの。
オープニングアニメーション(デザインワーク|作画|監督 森本晃司)
女の子が突然現れた白いうさぎに誘われるように神社の鳥居をくぐると、そこは異界だった。──このストーリーが『不思議の国のアリス』へのオマージュだったとは、パンフを読んで始めて気づいた。
僕はむしろ『魔法少女まどか☆マギカ』を思い出したのだが、すると、『まどか☆マギカ』も『不思議の国のアリス』へのオマージュだったということなのか!
次々と変化する場面、そして色彩の豊かさ。いきなり我々の眼と耳と心は浮遊し始める。まさにオープニングに相応しい作品。はるかぜちゃんこと春名風花が声優を務めている。
『つくも』(脚本|監督 森田修平)
「つくも」とは当然「九十九」で、使い捨てられて長い月日が経った事物を表しているが、そこに魂が宿って妖怪化してしまった「付喪神」をも表している。
深い山中で道に迷って雷雨に打たれ、祠に逃げ込んだ男。そこにはガラクタの山が。そして、それらが彼を襲ってくる。しかし、彼はなんでも修理してしまう男。彼の手によってガラクタが修復される。
この豊かな着想と、溢れんばかりの和の色彩、そして図柄。それらが現代的なCGアニメの手法で描かれる。いや、これは真似できんぞ!
『火要鎮』(脚本|監督 大友克洋)
そして、真打ち登場。川本三郎曰く「和の大友克洋」。江戸の風俗・ファッションにこだわり、日本画風のタッチで描かれたアニメ。絵巻物風の俯瞰の構図。
刺青は一枚一枚手描きしたという念の入れよう。
何よりも驚いたのは、江戸時代の火消しは、火事の時にそんなことしてたのか!ということ。
描かれるのは町娘の恋と明暦の大火である。その2つが矛盾することなく非常に濃やかに描かれている。どんだけすごいんだ、大友克洋!と言いたくなった。
『GAMBO』(監督 安藤裕章)
と思いきや、もっとド迫力だったのが安藤裕章のこの作品。非常に土俗的な臭いのする作品。映画監督の石井克人が原案|脚本|クリエイティブディレクターで参加している。なんと豪華なメンバー!
16世紀の東北地方。村の娘を次々と略奪する鬼。そして、その鬼と戦う、人間の言葉を理解する白熊。全体としてはバイオレンスものと言って良い。ただし、和のバイオレンス。
なんだかわからないが、目の前で展開されている戦いの迫力に圧倒されてしまった。しかし、どこか日本人の精神に触れてくるところがある。そこが不思議。
『武器よさらば』(脚本|監督|メカニカルデザイン カトキハジメ)
そして最後は大友克洋の名作をカトキハジメが映像化したもの。時代が違うので若干違和感があるが、これはこれで最後の作品として、嵌るべきところに嵌った感じもある。
無論僕はこれが大友の原作であるとは知らずに観ていたのだが、戦う相手が自動戦闘マシンのハイテク戦車であるという設定がすごい。
戦争は既に終わって廃墟化した街で、武器の除去をするのが登場する5人の部隊の仕事である。そして、中には研修を終えて実戦に配属されたばかりと思われる人物もいるところなどが面白い(どこまでが原作通りなのか知らないのだが)。
この作品は何よりもディーテールのすごさ。戦車の動きとか、フェイスマスクのガラス面に映る通信とか。そして構図の多彩さ。速い展開。──僕ら自身が戦っているような気分になる。
多分ここでは描かれていない背景が、原作にはもっともっとあったはずだ。原作が読みたくなる。
いやあ、これはすごいオムニバス・アニメである。今この文章を読み返すと「すごい」だらけで、我ながら表現力の貧困を感じるが、その言葉以外では却々表し難いのである。
このクオリティには本当に舌を巻いてしまった。
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