はしご
【7月9日特記】 最近、2軒目3軒目に行くことが少なくなったと思う。
もちろん、それは僕が酒を飲めないということも関係がないわけではない。
昔は飲めようが飲めまいが、そんなことお構いなしに、「もう1軒つきあえ」と暴力的に連れて行かれた。いや、一緒にいるのが年長者ではなく同年輩の場合でも、そういう時にはなんか有無を言わせぬ雰囲気があった。
それが今では会社における自分の立場も、世の中における下戸の立場も上がってきて、平気で「それじゃ俺は帰るから」と言えるようになった──。
もちろん、そういう事情と無関係ではない。ただ、それは僕の側だけの事情の変化ではないように思う。2軒目3軒目に「はしご」するという文化自体が若干廃れてきた気がするのである。
それよりも1軒目に長居してゆっくり食を味わい酒を楽しむという文化のほうが幅を利かせてきたのではないか。
──と、そこまで思ってふと気づいたのだが、いや、多分そうではない。逆だ。2軒目に行かないから、行かなくて済むから1軒目に長居する(できる)ようになってきたのだ。
昔はひとつの店で2時間も過ごしたら、必ず誰かが「河岸変えようぜ」とか「六本木行こうか」(バブル期を東京で過ごしたので、僕の記憶はそんな風になっている)などと言い出したものだ。
まるで店を変えなければならないように店を変えた。これは酒を飲めない僕にとっては全く理解できない謎であった。
どうせなら同じ店で飲み続けたほうが(時間的にも料金的にも)効率が良いのに、とよく思った。
1軒目は食事が美味しい店で、2軒目は女の子がいる店で──というように店のタイプを変えるのならまだしも、同種のバーやクラブを何軒もはしごする先輩たち(と、強制連行される自分自身)を見て、非常に奇異な、なんだか割り切れない思いをした。
あれは何かの強迫観念であったのかもしれない。そして、その強迫観念は、あの時代には嗜みとか流行とか言われていたのかもしれない。
その時代が終わった。あるいは、時代が変わった。
最近、2軒目3軒目に行くことが少なくなったと思う。
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