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Sunday, July 14, 2013

映画『俺はまだ本気出してないだけ』

【7月14日特記】 映画『俺はまだ本気出してないだけ』を観てきた。

原作の漫画のことは全く知らない。ただ、予告編を見て軽いコメディだろうと思っていた。ところが思いの外深いのである。

深くて意味が溢れている。あまりの意味の横溢に、虚脱感さえ覚えてしまった。

映画館では観客から終始笑い声が漏れていたが、僕は終盤ほとんど笑えなかった。

あまり何も考えずにワハハと笑って映画館を去る人もいるのだろう。それが悪いとは言わない。それはある意味、この映画の主人公・シズオのような人なのかもしれない。それはそれで大いなる魅力である。

シズオは40歳を過ぎて、言わば「自分探し」のために会社を辞める。妻とは離婚、高校生の娘と自分の父親と同居、という境遇で。そして、ある日これまた突然思いつきで漫画家になると言い出す。

一応本気で漫画を書いて出版社に持ち込むが、何度持ち込んでもボツである。

全く収入がないわけにも行かないので、一応ファーストキッチンでバイトしている。後輩のバイトたちに馬鹿にされながら。そして、子供たちの野球やサッカーに押しかけ参加したりしている。

ま、通り一遍のことばで言えば、いい年していつまでも夢みたいなことばっかり言っている、ちゃらんぽらんで、家族そっちのけで自分のことしか頭にない、行き当たりばったりの、イケてない中年のおっさんの話である。

そのシズオを堤真一が演じるというのが、原作を知る人たちにとってはものすごく意外性のあることだったようだが、原作を知らない僕にはそれほど違和感がない。堤真一という人は、確かに今までこういう役柄はなかったかもしれないが、確かにこういう役柄を演じられる人だと思う。

ただ、原作の絵柄と比べると、これまた確かにかけ離れている。福田雄一監督は、

僕は原作を忠実に映画化することには抵抗があるんです。原作に見た目が似ている方をキャスティングして、「似ているね」って言われることはまったく嬉しくない

と言っている。確かにそうである。そうであるからこそ、映画には福田雄一ならではの、堤真一ならではのリアリティが生まれるのである。

そのリアリティが何とも言えず情けなく、腹立たしく、ちょっぴり哀愁があり、内心忸怩たる思いもあり、そういう意味で共感を覚え、どこまでも脳天気なシズオを羨ましいとさえ思い、でもそれはどうかなという抵抗感もある。

人生はひと括りにはできない多様なものである。そのことをこの監督は痛いほど知っている。そして、この監督一流の会話展開で、見事にその多様さを笑いの糸で縫って行く。

僕はこの話に教訓を求めてはいけないと思う。人生はただ人それぞれなのである。そして、その人生をどういう断面で切り取るかというのもまた、その人を見守る別の人の人生の多様性なのである。

人生はやり直しの効かないものである。しかし、だから結果論で語るしかないというのは大間違いで、この話もシズオが見事漫画家デビューしたからそれで良し、結局ボツになったからやっぱりダメ、というようなものではない。

──その辺のところが、若い観客の皆さんにはどれだけ解ったのかな?と少し心配になった。

福田雄一はやっぱり脚本の人である。見事に痛々しい、泣けるドラマになっていると僕は思った。いや、もちろん笑えるし、希望も湧くのだが。

シズオが娘の鈴子(橋本愛)にしょっちゅうフーゾクに行っているのかと訊かれて、「そんなわけないだろ」と言いながら、「とっても素晴らしい場所だけど」とか何とか言い添えるところが、なんだかとても良かった。

ドラマは冒頭からのんべんだらりのシズオとそれを咎める父・志郎(石橋蓮司)の言い争いのシーンをふんだんに入れ込んであるが、娘・鈴子が父親をどう見ているのかは語られないまま進んで行く。

多分、ドラマを終える時のために取ってあるんだな、と思っていたら、本当に終盤父と娘の話に持ってきた。その父として、話題は低俗だが、こんなに爽やかな会話ができるなんて素敵だなと思った。

シズオ、父、娘に加えて、シズオの幼馴染である宮田(生瀬勝久)、金髪のアルバイト青年・市野沢(山田孝之)、漫画雑誌の編集者・村上(濱田岳)ら、みんなが本当に良い演技をしていて、とても読後感の良い話になっていた。

居酒屋の店主役で出演している、元々は漫画家である蛭子能収が面白いことを言っている。

俺から見ればシズオはとっくに本気を出しているんですよ。でも頭が悪いから描けないだけ。俺なんかもそうだからね。(中略)だいたいのマンガ家は頭が悪くて、でもどうにか描いているだけ。(中略)だからタイトルを『俺は本当に頭が悪いだけ』に変えたほうがいいと思いますよ(笑)

ここにはこの人の人生がある(笑) それは良いとか悪いとこいうことではないのである。

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