『君に届け』
【6月8日特記】 WOWOW から録画しておいた『君に届け』を観た。熊澤尚人監督。青春ものを撮らせると良い仕事をする人だと思う。
設定が面白い。よくこんなことを考えたと思ったのだが、原作は有名な漫画らしい。
主人公の黒沼爽子(多部未華子)はちょっとヘンな子。だけど、ものすっごくいい人。いつも他人の役に立ちたいと考えている。でも、その風貌と、根暗な雰囲気から、いつの間にかクラスメイトから貞子と呼ばれるようになっていた。そう、『リング』の貞子である。
とても長い黒髪だけではなく、多部未華子ならではの(もちろんこれも作った表情なのだが)きつい目つきが、実際貞子によく似てるからおかしい。多部未華子はこういうエキセントリックな役を演らせると本当に巧い。
で、クラスメイトの多くは近寄らないが、あやね(夏菜)・千鶴(蓮佛美沙子)というちょっと不良っぽい親友ができる。そして、クラスの人気者で、爽やかを絵に描いたような男子・風早翔太(三浦春馬)も何故だか爽子を構ってくれる。
青春恋愛ものである。ついつい嫌なことを言ってしまったりする人間は出てくるが、根っからの悪人はひとりも出てこない。
こんな話はハッピーエンドに決まっている。なのに(世の中にはハッピーエンドでなければ嫌だという人もいるので、「なのに」なんて書くと怒られるかもしれないが、僕はあざといハッピーエンドは大嫌いだ)面白い。
「バッターが直球を待っていると分かっていて、あえてそこに直球を投げ込むのもピッチングである」と言ったのは確か江夏豊だったと思うが、それに似た爽快感がある。
ひとつひとつの画がとても瑞々しい映画である。横から真上から、寄ったり引いたり、ひとつひとつがとても綺麗な構図で切り取られていると思う。
翔太が自転車を押しながら先を歩く。爽子が来ないので振り向く。爽子が慌てて2、3歩駆け寄る。でも、やっぱり変な距離が開いている。──こういう恋愛初期の描き方が非常に巧い。
桐谷美玲が憎まれ役を演じている。だが、それでも救いのある役柄になっている。難しい役で、この当時の力量ではあまり上手に演じきれていない気がする。彼女はこの後の『ジーン・ワルツ』で一気にひと皮剥けた気がする。
この映画の白眉はいつもテキトーで脳天気だが不思議に生徒たちの支えになっている教師役を演じた井浦新(この当時はまだARATA)である。ものすごく巧いし、この役がこの映画の非常に良いアクセントになっている。
爽子の両親を勝村政信と富田靖子が演じていて、これが却々良い味なのだが、この2人と爽子の関係性をもう少し画面上で描けたならもっと説得力のある映画になっていたと思う。
ただ、いずれにしてもとても良い映画だった。素直で前向きになれる。こういう映画はありがたい映画だと思う。
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Comments
この記事を書いてくださったyama_eighさんに、まずお礼を言わせてください。ありがとうございます。
この映画、実はずっと観たくて、でも勇気が出なくて観れなかったんですが、この記事に背中を押してもらってようやく観ることができました。
…と言いますのも、主演の三浦春馬くんが高校時代の初恋の人にそっくりで、だからこそ観たかったのですが、だからこそ観る勇気が出なかったという…^^;。なんだか自分を重ねあわせてしまいそうで。
で、ようやく観て、どうだったかと言うと…観て良かったです!本当に!私の初恋はあんな風に素敵な展開にはならなかったけど、何ていうのかなぁ…いろいろ思い出しました。ひとを好きになるということや、想いを通じ合わせるまでの“コワさ”みたいなものとか。
忘れていると思っていたはずのものが、ちゃんと細胞の隅々に記憶されていることが分かりました。
ていねいな作りの映画だからこそ、だなぁと。
ほんのちょっとですが、気持ちが若返りました(≧∇≦)。
Posted by: リリカ | Saturday, June 15, 2013 20:32