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Sunday, June 30, 2013

映画『箱入り息子の恋』

【6月30日特記】 映画『箱入り息子の恋』を観てきた。

中村義洋とか廣木隆一とか、僕が好きな監督の作品も上映中なのだが、今回のはいずれもどうも観る気が起こらないので、どうせなら観たことない監督の作品をと思ってこれを選んだ。

市井昌秀監督。PFF から出てきた人。

主人公は天雫健太郎(星野源)。苗字は「あまのしずく」と読む。

話は逸れるが、こういう一度聞いたら忘れない難しい苗字にしていることには意味がある。そして、水にちなんだ苗字にしていることにも意味がある。そういう意味で、隅々まで計算の行き届いた、とても良く練りこまれた脚本である。

マックス・マニックスの原案を田村孝裕が脚色し、そこに市井昌秀が手を加えて完成した台本。

話の逸れついでに言うと、冒頭のシーンがカエルのクロース・アップ。なんじゃこれは?と思う。意味が分からない。

ただ、誰が見ても後でこれが絡んでくるんだろう、と思うし、相当深く絡んでこないと冒頭に持ってくる意味がないぞ、と思うのだが、後の何箇所かのシーンを見ると、これまたこの脚本の巧さが解る。

話を戻そう。主人公は健太郎。35歳、独身、市役所勤務。彼女いない歴35年、当然童貞。両親と同居。昼食は家に帰って食べる。仕事が終わればまっすぐ帰宅して、夜は部屋に篭ってゲーム三昧。

ものすごく真面目、極端に几帳面。あがり症、人見知り。酒も飲まない、煙草も吸わない、友だちもいない。

しかし、コメディだからまあこれで良いのだけれど、ここまでやるとどうしても「作り物」感が出てしまう(話はまた逸れるが、パンフを読むと何箇所かに「コメディではない」と書いてあったのでびっくり)。

また話を戻そう。そんな極端な人物設定であっても、例えば、そんな彼だが仕事の評価は極めて高いとか、意外にこれこれをやらせると玄人裸足、みたいな“ひねり”か“仕掛け”をひとつぐらい加えておかないと面白くないぞ、と思う。

で、彼が恋する相手が奈穂子(夏帆)。これまた会社社長の父と母に大事に大事に育てられたお嬢さん。趣味はピアノ。

これでこの先どうストーリーを展開するのだ!と思ったら、こちらには“仕掛け”があった。夏帆の視線の定まらないこの演技は何なんだろう?と思っていたら、目に障害があるのであった。

この2人が巡り会ったのは親同士の「代理見合い」による。健太郎の両親(平泉成、森山良子)と奈穂子の両親(大杉漣、黒木瞳)が参加した、本人たち不在の集団見合いである。

奈穂子の父親は健太郎のような男を最初っから完全に見下していたが、あることがきっかけで奈穂子の母が正式な見合いに持ち込む。

作った人たちはコメディではないと思っているフシがあるが、台本が良いので随所で笑える。館内に何度も笑い声が響いた。

そして、カメラワークが面白い。

長いカットを多用するのだが、その間カメラはじっとせず、非常にゆっくりだが、なんだか無駄に動いている。落ち着きのない感じ。

しかし、何故だろう、これが結構面白いのである。不思議に抵抗感がない。

それから、フレームの外で芝居をさせるカットも何箇所か。声や音だけ聞かせておいて、何秒か遅れてカメラがそれをフォローする。

そういう不思議な画作りに乗って、非常に上手い台詞回しが展開される。何よりも劣等感や負い目といったものがちゃんと描けている。手を繋ぐのかと思ったら手を引くとか、左利きの食事の話とか、随所に小技も効いている。

主役の星野源が、この変わり者(そして結構頑固者)を巧く演じている。

そして、夏帆も、線は細いけれど世間ずれしてなくて素直なお嬢さんという感じを上手に出している。

今テレビ東京で放送中の連続ドラマ『みんな!エスパーだよ!』ではあばずれのヤリマン女子高生(と思われていたが実は処女だった、という設定なのだが)を演じているが、その役とこの盲目の令嬢の役が両立するところがすごい。

彼女はこの先大スターにはならないかもしれないが、結構役柄の広い、息の長い役者になるのではないだろうか。

さらに、主人公に少しだけ絡む同僚役の穂のかがなんだか捨てがたく良いのである。

さて、こういう映画は言うまでもなくハッピーエンドにするしかないのだが、いかにもという感じのハッピーエンドにしなかった終わり方も非常にバランスが良い。

これは思いの外良い映画だった。それなりの余韻があって、読後感は極めて良い。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

ラムの大通り

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Comments

こんにちは!ここでこの記事を拝見してから、ずっと長い間、この映画を観る機会を待っていたのですが、ようやく観ることができました。
なかなか面白い映画でしたね。たしかに「コメディじゃない」というのには軽い驚きを覚えます。
個人的には、主人公の星野源さんの気持ち悪さ(←あくまでも役柄の)が半端ない感じで、導入部「おおっ!これは生理的に無理!」と思いながらも、yama_eighさんの記事のおかげで何とかそれを乗り越えることができました(笑)。
実際に二人がお見合いする場面で、自分の気持ち悪さというか、これまで嗤われてきたこととその心情を、主人公が吐露するあたりから「これはなんだか良さそうだ」となってきて…。
“コメディではない”と言いつつも、観客にコメディとして見えてしまうのは「恋愛というのは当人以外には総じて滑稽に映るもの」ということなのかもしれませんね(自分の経験も含めて)。
だんだん主人公がカエルに見えてくるあたりの作りは絶妙でしたね(笑)。

Posted by: リリカ | Sunday, March 09, 2014 at 13:05

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Tracked on Saturday, July 06, 2013 at 15:01

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