映画『オース!バタヤン』
【6月2日特記】 映画『オース!バタヤン』を観てきた。
不謹慎だと言われるかもしれないが、僕はそここそ好きだった歌手が亡くなると、「お、追悼盤のベスト・アルバムが出るぞ」と期待してしまう。
これがめちゃくちゃ好きだった歌手ならそんなことはない。何故ならほしい音源は既にほとんど手に入れているからである。
ところが、そこそこ好きだがわざわざ CD を買うほどのことはない、という歌手の場合は、亡くなったことをきっかけに安直なベスト盤が編集されるのはありがたいことなのである。
バタやん(と、僕なら「やん」はひらがな表記にするのだが)こと田端義夫の場合はまさにそういう例に当たる。何しろ彼の大ヒット曲のほとんどは僕が物心つくまえの時代のものだったのだから(だから音源はほとんど持っていない。しかし良い曲がたくさんある)。
で、今回はベスト・アルバムではなく、ドキュメンタリ映画が出てきた。これは決して追悼映画ということではなく、亡くなる何年も前に撮り始めたようだ。
と言っても、映画で使われているのは(それ以外のコンサートでもカメラは回したらしいが)大部分が2006年の大阪・鶴橋の小学校講堂での公演(映画のために企画されたもの。司会は浜村淳)で、あとはありものの過去映像と関係者のインタビューである。
ただ、インタビューに登場するのは家族やマネージャ、レコード会社関係者などに限らず、立川談志、小室等、内田勘太郎、白木みのる、寺内タケシ、中川敬、瀬川昌久、北中正和、佐高信と極めて多彩で、この辺がやはりバタやんのファン層の広さをしっかり感じさせてくれる。
そう、彼はそこら辺の演歌歌手、懐メロ・スターではないのである。
街で耳にした曲をレコーディングしてしまうというセンスもそうだし、ギターを胸の高い位置に構える独特のスタイルもそうだし、あのボロボロのエレキ・ギター(昭和29年から使っているらしい)もそうだ。
昔のロック・ミュージシャンの中にはステージでエレキ・ギターをぶっ壊す人もいたが、ステージ上でエレキ・ギターを修理して、その間観客を待たせておいても喜んでもらえるなんて、田端義夫以外にありえないだろう。
ところで、この映画は会社の同僚と見に行ったのであるが、映画館は立ち見の出る大盛況で、その中では間違いなく僕らが最年少だった。開演30分前からぞろぞろと高齢者が集まってきて、チケット売り場で皆こんな風に言うのである。
「あのバタやんの映画。60歳以上です」
満席と聞いて次の回の切符を買っている老人たちもいた。そして、その後は地下1階にある映画館の係員が階段の上まで出てきて、老人たちが階段に足を掛ける前に満員である旨を告げていた。立派な対応である。
しかし、この映画、オープニングとエンディングに使われたのはバタやんのヒット曲ではなく、ニューオリンズのブルースである。そういうところがセンスの良い監督だと思った。この監督が何者なのかパンフのどこにも書いていないのだが、なにしろ名前が田村孟太雲(モウタウン)である(笑)
そして、パンフにはバタやんのギターのパーツごとの写真を載せて、その構造と音色について詳しく述べてある。良い企画ではないか。
撮影監督は『精霊のささやき』『罠』『ザ・ゴールデン・カップス ワンモアタイム』などの長田勇市と『モンスター』の大沢佳子である。
昔のファンがノスタルジーで見るだけでは本当にもったいない気がする。見事に今のミュージック・シーンから見たバタやん像になっていたことに敬意を表したい。
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