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Saturday, January 19, 2013

映画『カラカラ』

【1月19日特記】 もう何ヶ月も公開を待っていた映画『カラカラ』を観てきた。クロード・ガニオン監督。

クロード・ガニオン監督の長編デビュー作『Keiko』(1979年)は、僕が生涯に観た映画の中で3本の指に入る映画だと思っている。最も上手に作られた映画ではないかもしれないが、最も衝撃を受けた映画のうちのひとつである。ちなみに同年のキネマ旬報ベストテンでは第3位にランクされた。

あの映画の中で若芝順子が演じた主人公の恵子は、旧い男女観に照らせば可愛い女かもしれないが、どうしようもなく男に依存した不幸な女だった。そして、全く自立性のないその生き方に、僕は絶望的なショックと哀しみを感じた。そのショックがあまりに大きかったので、僕はこの映画を2回見ずにはいられなかった。

思えば、あの時代にはあまり指摘されていなかった、あの時代の日本の女性に特有の弱さを、ガニオン監督は外人の眼で捉え、ディスカッションと即興と順撮りという手法を通じて、それを陽の当たるところに引っ張りだしたのである。

あれから三十余年、今回描かれた日本女性・純子(工藤夕貴)は、暴力を振るうような夫と縒りを戻そうとする、旧い倫理観に縛られた態度も見せはするが、だからと言って決して夫の言うがままにはならず、一緒に旅をするカナダ人の元大学教授ピエール(ガブリエル・アルカン)に対しても正面切って苦言を呈したりもしている。

考えてみればそれは、この30年間に日本の社会がそれだけ成熟したということの証左なのだろう。

しかし、今回はアメリカの基地を抱えた沖縄という土地での、カナダからやってきたフランス語を母語とする初老の男と、夫から逃げてきた日本の女性が英語で喋るという、非常に複雑な視点で捉えられた映画になっている。この構造が『Keiko』よりも遥かに複雑で深い世界を描き出すことに成功している。

ピエールは大学を定年後、小さな雑誌に投稿したりして過ごしている。彼は初めてのアジアの地・沖縄にやって来た。道に迷っているところで英語のできる純子とその友人の明美に助けられる。

本当ならそんな小さな出会いだけで終わるはずが、純子が夫とのうんざりする暮らしから逃れるための口実としてピエールを訪ね、通訳兼ガイドを買って出る。そして、その初日に、2人は早くも男女の関係を取り結んでしまう。──それがこのロード・ムービーの始まりである。

同じ物を撮っても、僕ら日本人とは観ているものも感じているものも違う気がする。そこに僕らが普段意識していない日本的なるものが描き出されることになる。そして、画作りも日本の監督とは全然違う。いや、単に構図の問題ではない。どこか着眼点が、構想が違うのである。

ピエールが土産物の笠をかぶって、半泣きになりながらフランス語の歌を歌って自転車で走るシーンの、この何でもない長回しが、なんと心に響くことか!

屋根瓦と海面と琉球音楽だけで、ここが沖縄であることを分からせてしまう素晴らしいオープニング。柄や模様や繊維や肌理や、そういうものを画面いっぱいに映し出す手法。基地の戦闘機の爆音と、糸芭蕉の繊維を裂く音の対比。フランス語で書かれ語られるピエールの手記(であり、それは心の声である)。

ひたすら琉球ミュージックだった三線に最後はドラムスとベースとギターが重なってジャズになる。そして、最後のシーンでピエールと純子を収めたロング・ショットの、なんと温かいことか!

やっぱり僕らはクロード・ガニオンにいろんなことを考えさせられてしまう。そこには外国と日本があり、男と女がいて、年齢の違いがある。初老の男の哀しみが描かれ、くたびれた妻であり母である女性のあがきが語られ、沖縄のおばあの元気が添えられる。

クロード・ガニオンの映画は『Keiko』、『セント・ヒヤシンス物語』と立て続けに見て、その後全然見る機会がなかった。その間に5本もの映画を撮って、賞も受けていたことさえ知らなかった。

今回久しぶりに「もう一回観てもいいかな」と思う映画に出会えた。やっぱり良い監督である。とてもじんわりと来る映画である。

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