『マジック・フォー・ビギナーズ』ケリー・リンク(書評)
【1月15日特記】 柴田元幸が訳しているのと、帯に川上弘美の推薦文がついていたことに惹かれて読んだのだが、「面白いけど疲れる」というのが正直な感想。
そもそも短篇集というのは印象が散漫になってしまうものだが、こういうタイプの作品はしっかりと固定した印象を保つこと自体が難しい。これはまるで詩である。まるで詩のような小説なのではなく、小説のような形をした詩なのである。そう、一冊がまるごと詩なのである。
それは悪く言えば荒唐無稽である。ブローティガンを倍くらい解りやすくした感じ(笑)
でも、このぶっ飛び感はすごい。そもそもやたらと広いところから題材を採って来て、それがとんでもなく関係のないところにぶっ飛び続ける。その度ごとにどこに飛んで行くか判らない。音楽に例えるなら、メロディに終結感がない。次から次へと変奏して行く感じ。
だから、読者の予測は悉く裏切られる。いや、そもそも予測がつかない。ひとつのエピソードから次のエピソードへ、話はどんどん脇道に逸れて本筋に戻ることなく、それを何度か繰り返すうちに一体何が本筋であったのか解らなくなるのである。
そういう自由な想像力の横溢を楽しむのがこの本である。まさにイメージの展開に翻弄される。だけど、その逸れ方が愉しいと言えば愉しいのだが、疲れると言えばこれまた非常に疲れるのである。
- 我が家の家宝であるハンドバッグから、異界に住んでいる妖精が出てくる話
- コンビニの前の深淵からゾンビが這い上がってきて店内に入ってくる話
- Q&A形式の大砲の話
- 郊外に買ったマイホームに無数のウサギが棲みついている話
- 魔女の家に出入りしている猫の皮の話
- ゾンビが出てきた時の不測事態対応策を語りながら展開するストーリー
- 死者と生者の結婚生活と離婚の話
- 『図書館』という放送時間不定の番組のファンの少年少女と両親の話
- 地下室に集まった男たちの会話からどんどん逸れて行く話
──と書いてしまったが、本当はこんなに単純ではない。いずれも話としては一筋縄では行かない。何と言うか、これは読んでもらうしかない。読んで面白がって刺激を受けて、でも結構疲れて、時々読みながら寝落ちして、また目が覚めて読むような、そんな読み方をするしかない本である。
分かったかな? いや、これは多分読まないと解らないと思う(笑)
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