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Saturday, January 26, 2013

映画『みなさん、さようなら』

【1月26日特記】 映画『みなさん、さようなら』を観てきた。中村義洋監督作品をスクリーンで観るのはこれが11本目(脚本作品としては9本目)。濱田岳の出演作はこれが9本目。この2人が組んだ5本については全部観ている。

なんとも不思議な話である。1968年生まれに設定されている渡会サトルの12歳(1981年)から30歳(1998年)までを濱田岳が演じている。サトルは小学校を卒業すると同時に、「今自分が住んでいる団地で一生過ごす」「団地の敷地から一歩も外に出ない」と決意する。従って団地の外にある中学校にも通わない。

サトルの母・日奈(大塚寧々)が偉かったのは、それはサトルなりに深く考えた結果であると察して、大人の価値観でサトルに何かを強いることなく自由に生きさせたことである。

とは言え、サトルは引きこもりになったわけではない。団地の人間は自分が守ると宣言して、夕方になると団地内の同級生の家を一軒一軒パトロールする。大山倍達の極真空手のビデオを見ながら体を鍛える。通信教育で勉強もする。16歳になってからは、団地内のケーキ屋に押しかけ就職もする。

だから(だから、という訳でもないかもしれないが、単に引きこもっていたらありえないことなである)、可愛い女の子たちとキスもするしセックスもする。この2人の同級生を波瑠と倉科カナが演じているのだが、これがなかなか艶かしいシーンになっていて、なんか羨ましいなあ(笑)という感じなのである。

奇想天外な初期設定だが、しかし、その後のストーリーや展開にものすごく意外性があるわけでもない。かと言って、観客の予想通りの展開にもならない。なんか、一度しっかり起承転結を作り上げた上で、その上からボカシを入れたような微妙な展開である。

考えようによっては、「え、それで終わり? 今回は前作の『ポテチ』なんかと比べるとちょっとひねりが足りないんじゃないの?」という風にも思えるのだが、しかし、見終わった後延々と尾を引くこの感じは何なのだろう?

原作の小説を監督が一気読みして映画化を決意したという。原作は読んでいないのでこれが原作の魅力なのか映画化の魅力なのかは分からないが、この何とも言えない人生の制御不可能性みたいなもの、だからこそ面白くだからこそ哀しいこの感じは何なのだろうと思う。ものすごくよく描けている。

団地の出口にある長い長い石段が効いている。いつもこの石段を降りて、サトルの同級生たちは一人ひとり、このややさびれ始めた団地から出て行く。サトルはそれを最上段から見送るばかりである。いや、サトルも何度かこの石段を降りようとする。だが、体が動かない。

何度も出てくる石段の上からの画、たまに挟まれる石段の下からの画──それらがものすごく印象的なカットになっている。

サトルの母やケーキ屋の主人(ベンガル)、サトルの親友の薗田(永山絢斗)の母(水木薫)たち大人と、サトルたち子供の距離感や関係性がすごく良い。

パンフレットを読んでいたら、川本三郎が「レビュー」を書いていて、団地内を見まわるサトルを、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』のホールデン・コールフィールド少年に喩えていた。──なるほどそうかもしれない。その感性に僕は言葉を失った。

その文章を読んでから、僕の心の中でこの作品のカラーがひときわはっきりと見えてきた。ひとことで言うとそれは「青春」なのであるが、しかしそれは絵の具箱にある絵の具を全部使っても容易に描けない絵なのである。

ストーリーとしては(もちろんそれなりに仕掛けもあるが、とは言え)めちゃめちゃ面白いというわけではない。しかし、容易に描けない絵を丹念に丹念に色を重ねて描いた映画である。時間が経つほどにじんわりと染みてくる。

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