映画『グッモーエビアン!』
【1月6日特記】 映画『グッモーエビアン!』を観てきた。この何だかよく解らないタイトルの意味が開始10分で分かる。却々粋な作りをしてある。
僕は大部分の邦画を監督の名前で見ているが、勿論今まで一度も観たことのない監督の作品も観る。その場合は、これから観ようかどうか考えている映画が面白そうかどうかに加えて、今までの監督作品の評判なども参考にする。
そして、デビュー作や、まだキャリアの浅い監督については、助監督時代に、どの監督に付いてどんな映画に参加してきたかも調べてみる。
さて、今作の山本透監督の場合、長編は2作目であり、助監督時代の作品を列挙すると、
- 『クロエ』(利重剛監督)
- 『さくらん』(蜷川実花監督)
- 『やじきた道中テレスコ』(平山秀幸監督)
- 『ジャージの二人』(中村義洋監督)
- 『ヘブンズ・ドア』(マイケル・アリアス監督)
- 『BALLAD 名もなき恋のうた』(山崎貴監督)
- 『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(山崎貴監督)
- 『アンフェア the answer』(佐藤嗣麻子監督)
うーむ、何このバラバラ!? イメージが湧かない。ま、最近では山崎貴・佐藤嗣麻子夫妻に重宝されてる、っつう感じなのか?
とは言えまあ、予告編はそこそこ面白そうだったし、そんなに悪くない評も2~3読んだので、まいっか、と思って観に行った。で、却々悪くない映画だった。
まず、106分という長さが良い。力が抜けてる感じ。
そして、特に本が良い。原作は吉川トリコという人の小説。脚本は山本透監督と、中村義洋監督との仕事が多い鈴木謙一が共同で書いている。
この脚本が優れている証となるような、象徴的な例を挙げると、土屋アンナが出てくるシーンなんか、この映画においては何の必然性もないのである。それを敢えてエピソードとして取り込んでいるところが気が利いていたりする。巧い!
この映画は一見ヤグ(大泉洋)とアキ(麻生久美子)の2人の大人の男女の恋物語のようでありながら、実はアキの娘であるハツキ(三吉彩花)という少女の思春期を描いた作品なのである。そして、そういう映画に出てくる大人たちが、正義も親権も決して振りかざすことなく、分からないものを正直に「分からない」と言う、そういう描き方がとても良いのである。
場所は名古屋(従って語られている言葉は名古屋弁らしい)。アキとヤグは名古屋で結構評判が高かったバンドの元メンバー。アキがギタリスト、ヤグはボーカルだった。アキのほうが2歳年上。アキが17歳で未婚の母になったとき、当時まだ中学3年生だったヤグがプロポーズした。
アキはヤグのプロポーズを受けなかったが、結局2人は一緒に暮らして一緒にハツキを育てた。しかし、生来脳天気なヤグはある日突然世界放浪の旅に出てしまう。そのヤグが何年ぶりかで帰ってきた。
ヤグは明るい性格は良いとしても定職には就かないし、ともかく脳天気、いい加減、酒飲み、ウルトラ・ハイテンション、思い込みの強いロックかぶれ、とんでもないお節介焼き──となると、ハツキにしてみれば、憎むところまでは行かないにしても、ウザくて仕方がない。
ところが、ハツキの親友のトモちゃん(能年玲奈)はヤグのことが大好きで、ヤグが父親だったら良いのになどと言う。そして、その一方で、何不自由ないお金持ちのお嬢さんであるトモちゃんもまた何か悩みを抱えているようなのである。
──そういう構図で語られる、これは良質の青春ドラマである。
終盤、タクシー乗り場でトモちゃんとヤグが出くわす場面を見て、「あ、このあとの展開が読めてしまった」と思ったのだが、そこからが却々曲者だった。
前半でヤグとハツキが走るシーンを長回しで収めておいて、それを意識させる形でそこから今度はヤグとハツキが自転車の2人乗りで走るシーンをまた長回しで見せる。クライマックスで主人公が疾走するというのは映画における定番の映像だが、しかし、これが2人乗りなのでスピード感が全然出なくて可笑しいのである。
そして、突然ストーリーは予期しなかったところへ行く。この辺りの期待を裏切る展開がとても気に入った。
最後のバンドのシーンは少し説明っぽくなっているのと長くなっているのが余計な気がしたが、まあ、そういう終わり方が良いのかもしれない。人生訓や演説にならずに爽やかに終わってくれる。
ただし、彼らのバンドがパンクを名乗っている割には、音としてはなんか80年代後半のビート・ポップっぽいのが少し残念だった。
麻生久美子という人はあまり好きな女優ではないのだが、その麻生を含めて、役者たちの表情がとても良かった。ここぞというところでアップでとても良い画を収めていると思った。撮影は小松高志である。
そして、大泉洋の巧さは言うまでもないが、とりわけこの映画で素晴らしいと思ったのはハツキの担任教師を演じた小池栄子(アキに反論された時のあの戸惑いの表情は他の女優にはできないと思う)と、トモちゃんを演じた能年玲奈である。能年はあれが「地」なのかもしれないが、第一に可愛く、第二に個性的で、第三に妙にリアルだった。
山本透監督の次回作も、能年玲奈の次の出演映画も、是非見てみたい気がする。
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