愛がすべて
【1月15日特記】 先週見に行った『吉本百年物語』の劇伴で Charlene の I've Never Been To Me が使われていた。勿論知っている曲で、とても綺麗な曲なのだが、誰の何という曲だったか思い出せなかったので、気になって iPhone に入れてある SoundHound で調べてみた。
このアプリは iPhone に鼻歌を歌いかけたら曲名を教えてくれるのである。勿論店内で流れている BGM を聴かせて曲名を探り当てたりすることもできる。その場合は歌と同時進行で歌詞まで出たりする。
ただ、自分で歌う場合は必ずしも精度が高くない(これは検索の精度と言うより歌唱の精度というべきかもしれないがw)のでちょっと心配したが、今回は一発で判明した。
しかし、シャーリーンという名前に記憶はない。『愛はかげろうのように』という表題にはおぼろげながら記憶がある。
さらに気になってネットでいろいろ調べてみると、日本でのカバーで一番流行ったのは椎名恵で、『LOVE IS ALL ~愛を聴かせて~』というタイトルだった。そっちのバージョンは確かに聞き覚えがある。
ところで、タイトルの I've Never Been To Me とはどういう意味だろう、と俄に気になってきた。これは一体何を歌った歌なのだろう?
流行った当時から I've been to Georgia and California という一節が耳に残っていて、なんだろうと思っていたのである。残念ながらその他のパートはあまりまとまった形で聴き取れていなくて、その疑問を今日まで放置してきたのである。
で、歌詞を調べてみて改めて驚いた(和訳もあるサイトとしてはここら辺りが一番優れているかな)。
これは悔恨の歌である。のっけから cursing at your life だの a discontented mother and a regimented wife だのと、いささか穏やかではない。
そして、その後の歌詞からエッセンスを抜き取るとこんな感じである:
若い頃は自由に憧れ、届かない夢を見てジョージアにもカリフォルニアにも行ったし、派手に遊び激しい恋もした。でも、フランスのニースに行ってもギリシャの島に行っても、結局本当の自分にはたどり着かなかった(I've Never Been To Me)
──これはそういう歌なのである!(ものすごく荒っぽくてごめんなさいw)。妻となり母となった自分が、若かった頃の自分に「本当の幸せが何か、あなたは解っていなかったのよ」と語りかける、結構シビアな歌なのである。
一番の歌詞で Georgia と California という少し不完全な脚韻を踏み、二番ではNiece と Greece という、今度は完全な脚韻を踏んでいる。全米中、世界中を放浪したということを表すためにこの地名が選ばれたのは韻を踏むためだったのである。
その後 I've been to crying for unborn children なんてフレーズもある。そして、I've been to paradise, But I've never been to me なのである(しんみり)。
しかし、この歌がなんで『愛はかげろうのように』、あるいは『LOVE IS ALL ~愛を聴かせて~』になるんだろう?
日本語の詞をつける時だけに限らず、日本の流行歌は1970年を過ぎた辺りから、どうも恋愛の歌一辺倒になってきた気がする。この曲の場合も、単に綺麗な曲だから綺麗な恋愛の歌にしたというだけのことなのだろう。
しかし、それにしても邦題に Love is all とは、これはあまりにもひどい。
そう言えば、Whitney Houston の最初の大ヒット曲 Saving All My Love for You (1985年)の邦題は『すべてをあなたに』だった。これを単純な愛の歌だと思った僕の友人は自分の結婚披露宴の BGM にこの曲を使った。だが、1行目の歌詞から既に明らかなように、これは妻子のある男性との不倫の歌である。
そう言えば僕の会社のかつての部下は、自分の結婚披露宴で、新郎新婦入場の BGM に、(恐らく彼が大好きであったのだろう) Black Eyed Peas の Where Is Love? (2003年)を使った。これも Love の単語から恋愛の歌だろうと思ったのだろう。しかし、歌詞を読むとこれは反テロリズムの歌である。
なんか、そんなことを思い出した。愛がすべて、ではないのである。
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