『ブルー・イン・ザ・フェイス』
【12月30日特記】 TSUTATA DISCAS で借りたブルーレイで『ブルー・イン・ザ・フェイス』を観た。『スモーク』の続編、だと思って借りたのだが、正確には続編ではなくスピンオフのようだ。めちゃくちゃ面白かった。
僕が DVD プレイヤを買って最初に買ったソフトが『スモーク』だった。原作はポール・オースターの短編。その短編自体が絶品だが、それをオースター自身が脚色して、ウェイン・ワンが監督して、まさに絶品の映画になっている。
その時の余ったフィルムを使って撮影したのがこの『ブルー・イン・ザ・フェイス』らしい。従って監督と脚本は『スモーク』と同じである。
ここでもブルックリンの煙草屋(と言ってもキャンディや雑誌も売っている)の雇われ店長オギー・レン役でハーヴェイ・カイテルが出てくる。あの店の、いつもほうきを持っているちょっと頭の弱い店員もいる。
「筋」というほど1本筋の通ったものはない。オギーの親友でシガー・ストアのオーナーがこの店を売ろうとしている話とか、その妻が一緒にラスベガスに旅行に行ってくれない夫に業を煮やしている話だとか、店に時計を売りに来るラッパーの黒人とか、そんな風に店に出入りする人たちのエピソードがオムニバス風に綴られる。
それが見事な人間観察に基づいた、つまんないけど面白い話の連続で、見始めたらかなりのめり込んでしまう。如何にもアメリカ人らしいジョークの応酬で、如何にもアメリカ人らしい語り口の連続である。
その語り口で、数えられないくらい多くの人種・民族が入り乱れるブルックリンの街の、アメリカという国の、そして人間たちが生きている世界の素晴らしさとバカバカしさとおかしみがたっぷりと語られる。つましいけれど捨てたもんじゃない人生である。
ものすごく余韻が深い。
そして、エンドロールでマイケル・J・フォックスやマドンナやジム・ジャームッシュなどという名前を見て、えー、そうだったのか!と驚くのである。
見終わって返却するのが惜しくなるほどの作品だった。
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