なんばグランド花月『吉本百年物語』
【12月12日特記】 今日、と言うか日付としてはもう昨日になってしまったが、なんばグランド花月で『吉本百年物語』を見た。
この12月公演がシリーズ9作目で、順を追って吉本興業100年の歴史を描いている。今回は1970年代が舞台である。
このシリーズ最初の頃は閑古鳥が鳴いていたとも聞くが、今日あたりはほぼ満員である。設定が今に近づくにつれてリアルタイムでその時代を体験した観客が増えるからなのだろう。
西川忠志が実父の西川きよしを、瀬戸カトリーヌが西川ヘレンを、なだぎ武が桂三枝を、矢野・兵動の矢野勝也が横山やすしを、そして石田靖が『ヤングおー!おー!』の小林プロデューサー(おそらくこれだけが仮名)を演じている。
で、こういう書き方をするとよしもと新喜劇に対して失礼かもしれないが(いや、そんなことないかw)、こんなものにまでちゃんと演劇的高揚感がある、というのが正直な感想であり、驚きであった。
いや、普段とは全く違う文法で脚本を書いている脚本家が一番楽しかったのではないかな──と最初は思ったのだが、調べてみると(と言うか、調べるまでもなく想像がつきそうなものだと我ながら思ったが)、これを書いているのは普段よしもと新喜劇に関わっている脚本家ではない。演出家はよしもと新喜劇をやってきた人だ。
そして、考えてみたら、演者はほとんどが吉本の芸人であるが、現在よしもと新喜劇に出演している人はほとんどいない。
そんな風に、水と油ほど違うのではなく、適度に違う血をよしもとワールドに移植したのがうまく調和した感がある。
音楽にしてもそうで、スキータ・デイヴィス、T.Rex、スージー・クアトロ、ディープ・パープル、キャロル・キングと、折に触れて出てくる定番尽くしの洋楽劇伴がなかなかよくマッチしている。
劇中の『パンチDEデート』の再現が多少意味不明で長すぎてだれたことを除けば、よくまとまった娯楽作品である。
そして、フィナーレと言うかカーテンコールは『明日があるさ』を皆で歌って踊る。──役者たちがこういうカタルシスを憶えてしまうと、もう従来のノリのよしもと新喜劇には戻れないのではないかと心配になるくらいの演劇的なメリハリがある。
やっぱり芝居って良いよな、と、まさかこんなものを観てそんな風に感じるとは夢にも思わなかった。もう1作くらい観ても良いかもしれない。
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