映画『大奥 ~永遠~ [右衛門佐・綱吉編]』
【12月22日特記】 映画『大奥 ~永遠~ [右衛門佐・綱吉編]』を観てきた。男女逆転時代劇、すなわち、史実をできるだけ歪めることなく、男女だけを逆転させて大奥を描くという意欲的な試みである。
前作の映画は観客動員195万人、興行収入23.2億円のヒットとなった。これはよしながふみの原作コミックスの第1巻のエピソードなのだが、時代は8代将軍吉宗の治世である。その後に、テレビドラマ・シリーズがつい先日まで放送されており、これは3代将軍家光、そして、この映画は5代将軍綱吉の話である。
で、ややこしいことに、テレビ・シリーズと今回の映画の両方に堺雅人が主演級で出ている。ともに大奥総取締の任に当たっていた人物であるが、もちろん別人である。
僕はテレビドラマの方は結局1回も見なかったのだが、堺雅人がこの2人をどう演じ分けるかというのも鑑賞のポイントとなっているようだ。映画の中でも堺の扮する右衛門佐は、テレビドラマで描かれていた有功の生き写しの人物として設定されていた。
観客席は9割が女性で、後ろに座っていた3人組の話を聞いていると、どうやらテレビドラマから引き続いて見に来ている人も多いようだ。
で、観ていて思うのは、この映画の成功は、トリッキーな設定であり、衣装なども極めて現代的にアレンジし、描かれる人間の内面にもかなり現代に通じるところがあるにも拘わらず、その劇進行においては如何にも時代劇らしいケレン味を維持していることではないだろうか、ということだ。
台詞はポンポンやり取りされず、暫しの間があく。その間にカメラが回り込んだり寄ったりして、決めのアングルに達したところで止まり、そのタイミングで役者があたかも見得を切るような台詞を言うのである。
日本家屋の暗さを意識した(しかし、映画の画面自体は暗くない)綺麗な室内の画である。ある種様式美的な感じもある。
僕は堺雅人という役者はあまり好きな役者ではない。巧いのかもしれないが臭いのである。僕は前々から、タイプは少し違うが、堺雅人は年を取ったら西田敏行のような役者になるのだろうなと思ってきたのだが、この映画ではその2人が共演している。しかも敵役である。
2人を並べると堺が臭すぎて西田がちっとも臭くない(まあ、今回はそっち系の演技はしてなかったのも確かだが)のに驚いてしまった(笑)。むしろ西田の巧さが目立った。しかし、この臭さというのは上で書いたケレン味たっぷりということに通じるので、この映画においてはそれはそれで良かったのかな、と思う。
この映画のテーマは性愛と為政である。最初は為政のテーマはあまり見えないのだが、終盤にそれまでのいろんなシーンや台詞が繋がってきて、2つのテーマがしっかりと結びついた形でくっきりと炙りだされてくる。
脚本は神山由美子なのだが、なかなか手腕のある人だと思った。今回のパートは原作コミックスを読んでいないのだが、ちょっと違いを読み比べたくなっったほどである。
要潤が扮している側室がなんとも女々しい感じで、しかし、それを将軍綱吉が「やっぱり可愛い男だ」と言って抱き寄せるようなシーンが、原作を正しく理解して、映像でしか描けない形で再現しているところが偉いと思う。
で、この細工を施された時代劇の箱に入った現代劇は、時代劇のリズムの心地よさの中をそろりそろりと進んで行くのだが、さすがに終盤になると少し飽きてくる。で、ちょっと飽きかけたところで大きく展開してラストに持って行く。大仰なオーケストラが被ってきて、わざとらしく盛り上げてくれる。
しっかりと定番っぽい構成である。中年男女の目で見ると、なんとも良い終わり方なのである。
今回はどのくらいの動員があるか分からない。が、悪くない出来である。ここまでひと言も触れなかったけれど、将軍綱吉を演じた菅野美穂がとても良いと思った。
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