『[MAKERS]21世紀の産業革命が始まる』クリス・アンダーソン(書評)
【12月17日特記】 僕は今まで読んだウェブ・マーケティングの本の中ではクリス・アンダーソンの『ロングテール』が飛び抜けて素晴らしいと思っている。あの観察と分析、理論構築と実証の能力は卓越していて、まさにあの本でアンダーソンが指摘をした通りに、マーケティングの世界が進化しているのを日に日に感じている。
そして、その彼が次に書いたのが『フリー』であった。ここで彼が説いた“フリーミアム”という視点は、それを読んだ時点では目新しいものであったが、今ではもう商売の常道のようなものになってしまった。
何故この人にはこんな本が書けるのだろう? それが僕には不思議で仕方がなかった。「たかが」といってしまうにはあまりに有名な雑誌ではあるが、それでもたかがワイアード誌の編集長ではないか?
ところが、この本を読んで、そもそも彼がジョージ・ワシントン大学で物理学を、カリフォルニア大学バークレー校で量子力学と科学ジャーナリズムを修めた人物であることを知った。それから彼はネイチャー誌とサイエンス誌の記者となり、続いてエコノミスト誌の編集者となったのである。なるほど、と思う。
そして、それ以前に彼は、街の発明家を祖父に持つ、技術工作好きの少年だったのである。それらのことが見事にここまでの彼の仕事に繋がっている。
で、今回はメーカーの話である。いや、大きな工場で少品種大量生産を展開する大メーカーの話ではない。ちょうど彼の祖父のように、発想だけは持っていても生産手段を持たず、そのために当時は製品化を諦めざるを得なかった人間が、今やウェブの恩恵を受けて自由自在に商品を作り、世界を変えて行くムーブメントについて述べた本なのである。
前の2冊、とりわけ『ロングテール』と比べると、この本は理論書的な側面が非常に小さく、そのほとんどが実例の紹介である。そして、既に実際に存在する(どころか大成功を収めている)企業の紹介であるからこそ、我々は「なるほど、そういう風に考えれば良いのか」ではなく、「え、そんなこと既にやってる人がいるのか!」という驚きにぶつかる。
世の中は進んでいる。そして、どこかにそれに早くから気づいている人間がいるのである。
この本を読んで湧き上がる感慨は2つ。──如何に自分がものごとに気づいていない凡庸な人間であるかということ、そして、「付録」にあるように、自分も何か作ってみたいというワクワクするような気持ち、の2つである。
ものづくりは愉しいではないか──そのことが全ての根底にある。
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