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Sunday, November 04, 2012

映画『黄金を抱いて翔べ』

【11月4日特記】 映画『黄金を抱いて翔べ』を観てきた。原作は読んでいるはずなのだが、例によって何も憶えていない。読んだのがあまりに前のことであるとはいえ、映画を観た後でも全く思い出す部分がないのが如何にも自分らしい(笑)

で、そんなことを言いながらこんなことを書くのも何だが、高村薫の小説を2時間程度のドラマや映画にするのは非常に難しい作業である。例えば、平山秀幸が監督した『レディ・ジョーカー』は典型的な失敗作だったのではないかと思う。いつもそういう形になりがちなのだが、「時間が足りない」感じになってしまうのだ。

映画素材として高村薫の小説を見ると、小説を解体して映画として再構築する作業の中で、全ての要素があまりに緻密に複雑に絡まり合っているので、棄てる部品がないのである。しかし、何かを棄てなければ2時間の映画にはならないのである。それが却々うまく行かない。

宮部みゆきの小説が社会を描いているのに対して、高村薫の小説は焦点がもっともっと個々の人間に寄っている。だから、あれだけの大著になる。そして、2時間の映画では描ききれなくなるのである。

そんな中で奇跡的にうまく行ったのが、崔洋一が監督した『マークスの山』だったような気がする。

さて、今回の井筒和幸監督はどうだったのか? 非常に興味を持って観たのだが、これが映画として面白いかどうか、しっかり作れているかどうかは別として、原作の小説をうまく映画化できたかどうかというポイントだけで見ると、僕はやっぱりちょっと失敗だったのかなあと思う。

それぞれの登場人物にそれぞれ深い深い背景があるのである。それを描くにはやはりあまりにも時間が足りない。これではただの銀行強盗の映画になってしまっている。

いや、よく練ってあるのはよく分かる。全員の背景を描くのは無理なので、主に幸田(妻夫木聡)に焦点を当てて描いている。ただ、5歳の時の経験はともかく、「調達屋」時代の話については、学生運動というものを全く知らない世代にどこまで理解できたのかとなると難しい。やっぱり時間が足りないのである。

で、もうひとりの主人公である北川(浅野忠信)については、その過去を描くことは諦めてばっさりと切り捨てている。その選択は正しいのだろうけれど、その結果、北川が何をきっかけに何を思って銀行強盗の首謀者となったのかが響いてこない。

他の4人のメンバー、北朝鮮の工作員モモ(チャンミン)、北川の弟・春樹(溝端淳平)、システム・エンジニアの野田(桐谷健太)、元エレベータ技師のジイちゃん(西田敏行)についても、それぞれに「もう少し時間をかけて描けたら」という印象が残る。

結局のところ、「1クール10回シリーズのテレビドラマの最後の2回の盛り上がり」みたいな映画になってしまった。それはそれで面白いのだけれど、「俺ここまでの8回見逃してるんだよね。しまった、録画しときゃ良かった」みたいな感じなのである。

パンフを読むと、脚本も出演者も原作をものすごく読み込んでいるようだ。だから、原作を読んで、その知識が頭にある人が観れば非常に適切な映画化であったと思うかもしれない。しかし、原作を読んでいない人、あるいは僕のように読んだにも関わらず何も憶えていない人が見ると、やっぱりちょっと入って行けないところがある。

その結果、どういう印象が残るかと言うと、こんな大きな犯罪を行うのに、随分と荒っぽいなあ、という印象である。

常識的には、これだけのことをやろうとすると、もっと綿密に調査をして計画を立てるだろうし、余計な所で余計な揉めごとを起こして目立つようなことは厳に避けるはずだし、銀行の扉を爆破するためのダイナマイトを強奪するところから始めるなんて、リスクが大きすぎる。

ただ、映画の中で北川が「俺は細心にはやるが、細かいのは好きじゃない」と言っているように、そういう点は設定が破綻しているのではなく、それこそがこの人物たちの犯罪の魅力なのである。あるいはそれは、原作者の高村薫がインタビューで語っている「大阪の暴力」のあり方なのかもしれない。

しかし、そういう本質的なところが逆に気になってしまうところが、詰まるところこの映画の限界なのかなあと思った。

──とまあ、ここまで「小説の映画化」ということに絞って、ちょっと貶し気味に書いてきたが、いやいや、とても雰囲気のある映画であるのは確かである。作品の重厚さはしっかり再現されていると言って良い。

筋運びはテンポも良く、観る者の気を逸らせないし、台詞にも細かい遊びがあり、青木崇高・田口トモロヲ・鶴見辰吾ら、脇も含めて役者が非常に良くて、猥雑な街の感じも良く出ているし、夜のシーンがとりわけ印象的である。

男ばかりの配役の中で、北川の妻を演じた中村ゆりが際立って、なんだか心に染みてくるものを感じた。

結局、評価に迷う映画である。やっぱり高村薫ものは映画化が難しいというのが結論だろうか(笑)

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