映画『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』
【9月30日特記】 映画『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』を観てきた。あれほど評判になった深夜アニメ(通称タイバニ)だが、実はテレビでは一度も見たことがなかった。
この作品で一番話題を呼んだのが、登場するヒーローがそれぞれスポンサーのバナーを身に着けていること、そして、そのスポンサーが BANDAI や SoftBank や pepsi や牛角など、全て実在の企業であることであった。
ここでの設定は、それぞれのヒーローがスポンサーのロゴの入ったスーツを着用して凶悪犯罪者と戦い、活躍度に応じてポイントが付与されるというものである。さらに、その一部始終をテレビ局が実況中継しており、サブからヒーローたちにインカムで指示を出すなどして、あの手この手で視聴率を稼いでいるという面白いものである。
テレビアニメを再編集した部分が多いので、テレビでファンになった人はあまり見に来ないのではないかと思ったが、台風の中よく入っていた。その多くは(会話を小耳に挟んだ限りでは)テレビからのファンであるようだ。
終わってからパンフを読むと、これは実はべったり再編集の作品ではなかった。第3話以降の素材は使われていないのである。
テレビ版の第1話と2話から素材を抜いて、3話へと繋がる新たなストーリーを書き足したとのことで、この映画で最大の敵として現れるロビン・バクスターは映画オリジナルのキャラなのである。ならば客も入るはずであると納得。
で、見始めてすぐに何故これが当たったかが分かった。キャラの描き分けの巧みさなのである。アメコミが日本のアニメに却々勝てない点がここにあると思う。
アメリカのヒーロー大集合ものでも、もちろんヒーローたちの特徴は描き分けられる。しかし、その中心となるのは特殊能力の差異であって、タイバニのようにそれぞれの性格や境遇、特にその人間味のおかしさはまず前面に出て来ることはない。
ところが、ここでの主人公ワイルド・タイガー(変身前の名は鏑木・T・虎徹)はデビュー10年目の落ち目のロートル・ヒーローであり、普段は(と言うか、ヒーローに変身してからも)ただのがさつなおっさんである。
そのタイガーと、会社の命令でいやいや(タイガーのほうもいやいやなのだが)コンビを組まされるのがバーナビー・ブルックス・ジュニア(彼は本名でヒーロー稼業をしている)で、彼は傍若無人の大型有望新人である。
この2人のコンビ名は本当であればタイガー&バーナビーのはずだが、タイガーがバーナビーを茶化して呼ぶ「バニーちゃん」が番組タイトルになっているというのも良い感じの設定である。
他にもヒーローはいっぱい出てくる。空をとぶ奴、火を放つ奴、なんでも凍りつかせる奴、電気を発生させる奴──この辺はアメコミも一緒である。そして、白人も黒人もアジア人もいる──この辺も最近のヒーローものの定番である。
しかし、 ランキング・トップのクールな白人ヒーローがとんでもない天然ボケだったり、炎で周囲を焼き尽くす奴がオカマだったり、他にもタカピーな女子高生アイドル・ヒロインがいたり、戦うのは自信がないのでスポンサーのロゴを「見切れ」させることに心血を注いでいるヒーローがいるなど、こういう設定は本当に秀逸である。
こういうのは日本の伝統的な物語の中にはなく、むしろアメリカのテレビドラマ(コメディや探偵ものなど)から日本人が学んできた展開の仕方なのだが、これがアメコミ(あるいはそれに基づいたヒーローもの映画)になると、途端に平板で子供だましな物語になってしまうのがアメリカの弱みなのではないかと思う。
テレビ版のファンの人からしたら、「あのシーンがない」「このエピソードが切られている」等の不満は当然あるのだろうが、虎徹以外のヒーローの背景や日常も書き加えられているとのことで、初めて見る者からしたら非常に解りやすいし面白かった。
この第1話・2話のころのバーナビーはともかくツンツンしているのだが、テレビアニメの後半ではデレデレした面も出てくるらしい。そんなことを聞くと、もっと続きを見たい、知りたいという気になってくる。
大人になるとアニメを見ない人が増えてくるのだが、アニメだからと言って馬鹿にしてはいけない。ヒットするものにはそれなりの理由があるのである。
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