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Saturday, September 15, 2012

映画『鍵泥棒のメソッド』

【9月15日特記】 映画『鍵泥棒のメソッド』を観てきた。

内田けんじ監督と言えば、何と言っても『運命じゃない人』だろう。あの映画で一発にファンになってしまった人も多いのではないか。そして、そんな人たちは次作『アフタースクール』も観たはずだ。それで、『アフタースクール』も観た人は、もう今回の『鍵泥棒のメソッド』を見ずにはいられないはずだ。

内田けんじ監督作品の特徴は、その見事に計算しつくされた脚本にある。内田けんじという人は脚本で賞を獲って来た人だ。とりわけ緻密な設定とストーリー展開で観客を唸らせて来た人だ。彼の脚本はいつもパズルでありトリックなのである。

我々は知っている。観客はずっとどこか騙されているのである。それが終盤に明らかにされる。あるいは、進行に沿って少しずつ明らかにされる。

だから、今回もどこか騙されているに決まっている、どこなんだろう、という興味で見始める。が、テンポが良くて変化があって、笑える台詞も散りばめられているので、すぐにそんなことは忘れて見入ってしまう。しかし、結局今回も終盤で種明かしされる。

やっぱり騙されてたんだ。なるほど、今回はそんな風に騙してきたか、と楽しくなる。

でも、これだけではきっと済まない、まだまだ二重三重に仕掛けてあるはずだ、と思って観ていたのだが、今回は前2作と違って意外にあっさりとしていた。これが今作最大の驚き。逆にあっさりとするという形で観客の予想を裏切ってきたか、と、これまた楽しくなる。

香川照之扮する殺し屋・コンドウが銭湯で滑って頭を打って気絶する(そもそも、殺し屋が銭湯行くかよ、というおかしさが既にあるのだが)。その時同じ銭湯にいた極貧の役者・桜井(堺雅人)が、そのすきにロッカーの鍵を取り替えて荷物を盗む。

桜井は一時は気が咎めて一切を返しに行くのだが、コンドウがそのまま記憶喪失になってしまったのをいいことに桜井はコンドウになりすますことにする。もちろん、その時点ではコンドウが殺し屋であることを桜井は知らず、単に羽振りの良い男だと思っている。

ところが、いきなり殺人のお礼やら新たな仕事やらが舞い込んできて、桜井は抜き差しならないことになる。一方、コンドウの方はひょんなことからやたらと生真面目な婚活中の雑誌編集長・水嶋香苗(広末涼子)と出会い、結婚相手の候補と目され、こちらもややこしいことになって行く。

──という喜劇である。いやいや、本当によく練れた脚本である。映画を見終わってから、いろいろ細かいところを思い出してみて、ああ、あそことあそこがちゃーんと繋がってたんだと改めて気がついて感心する。

いつものことであるが、観てその場で笑えるところと、見終わってから反芻して楽しめるところがダブルで用意されている。

思えば僕はこれまでずっと脚本の魅力だけで内田けんじを観てきたような気がするが、パンフを読むと最初から演技プランをしっかり持っていて、かなり「演技を付ける人」なのだそうだ。

そう言われると、今回ヤクザの親分に扮した荒川良々に、最初から最後まで強面のシリアスな演技をさせたのが秀逸だと思ったのだが、考えてみるとこれなどはキャスティングの妙と言うよりはむしろ演出の勝利と呼ぶべきなのである。

そう、どの役者にも普段とは少しずつずれた芝居をさせている気がする。広末涼子のほんわりした変人ぶりもそうだし、堺雅人もいつもほどクサくない。ちょっとスレッカラシの小山田サユリとか、女のしたたかさ丸出しの森口瑤子とか、みんなそうだ。

そんな中でやっぱり香川照之はめちゃくちゃに巧い。自分が売れない役者・桜井であると信じていた時のコンドウと、自分がコンドウであると思い出してからのコンドウの差異を、なんでもないみたいに、でも、ものすごくコントラスト鮮やかに演じ分けていたのに舌を巻いた。

最初僕の興味は、1)自分はどこで騙されているのか、2)コンドウは何をきっかけとして記憶を取り戻すか、の2点にほぼ尽きていたのだけれど、見終わってみると今回の映画のポイントはそんなところにはなかった気がする。

多分内田けんじは新たなフェーズに入ったのだろう。ストーリーを考えることから人間を描くことにシフトしてきたような気がする。いや、それとも、僕が今まで気づかなかった内田けんじに漸く気づいたというだけのことなのか?

エンドのキャスト・ロールが始まったらすぐに席を立って帰る人がいる。最初の2人が外に出てしまってからエキストラのロールが始まり、彼らに続いていた2人は仕方なくもう一度通路の階段に腰を下ろした。こういうのが内田けんじっぽい感じがする。

観ていて『アフタースクール』と同じようなビル外観のカットがあったりして、ああ、この監督はこういう角度が好きなんだなあと思った。

そう、撮る前から頭の中に角度やらプランやらがきっちりとある監督なのである。ずっと自分でオリジナルの、綿密な脚本を書いているのだから、それもそのはずである。今どきこういうしんどい作業を嬉々として続けている監督は珍しいのではないか。

今回もとても知的なコメディであった。次の作品はいつから脚本を書き始めて何年後に完成するのだろう。

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Comments

この記事から一年ちょっと遅れで、ようやく観ました。ストレートに面白かったです。前二作は仕掛けがうまいなぁと感心しましたが、ちょっとやりすぎな感じもあったので、今回くらいの凝り方が私にはちょうどいいように思えました。妙なところで人生が転がり始めて、一周して元に戻るんだけども、まったく元に戻るわけではなくて、ちょっとだけ生きることに前向きになっている感じが良かったです。

Posted by: リリカ | Monday, October 14, 2013 at 22:18

> リリカさん

こりゃまた古い記事を、どうもw
そうですよね、この映画はそれまでの内田けんじ監督のような「やりすぎ」感がなかったように思います。後味も良かったです。
まあ、僕はやっぱり単純なコメディである『運命じゃない人』が単純に好きですけどねw

Posted by: yama_eigh | Monday, October 14, 2013 at 22:59

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★★★★★ 人生を取り換えた男たちの大騒動は一筋縄ではいかない。先の読めない展開にワクワクしてくる。こういうちゃんと真面目に笑わせてくれる作品を観客は待っている。本作で傑出した輝きを放っているのは広末涼子だ。澄まし顔の結婚宣言シーンは長く記憶に残ることだ…... [Read More]

Tracked on Saturday, September 22, 2012 at 09:28

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