映画『おおかみこどもの雨と雪』
【8月4日特記】 映画『おおかみこどもの雨と雪』を観てきた。
『時をかける少女』は見逃したものの、細田守監督には『サマーウォーズ』で一発KOを食らってしまった。
でも、この作品は正直言って最初はあまり観る気がなかったのである。
それは、予告編を見る限り、なんか作画に魅力がないように思えたからである。通常、アニメーションの質の差が如実に現れるのは、髪の毛や洋服の皺などの質感である。予告編では、その辺りにあまり手間をかけていない感じがした。
それに今どき狼男と結婚して狼の子供を産むという設定もあまりピンと来ない気がした。
にも拘わらず結局見ようと思ったのは、この作品もまた、『時をかける少女』『サマーウォーズ』に引き続いて、奥寺佐渡子が脚本を書いている(今回は細田守と共同)と知ったからである。
僕がこれまでに映画館で観た奥寺脚本は、『しゃべれども しゃべれども』『サマーウォーズ』『パーマネント野ばら』『八日目の蝉』『軽蔑』の5本である。全くハズレがない、と言うか、このどの作品がその年の最優秀脚本賞に輝いても不思議がない。
今回のこの映画でも、それぞれの人物設定、展開、台詞(台詞を全く使わずに進めているシーンも含む)、いずれをとっても見事に計算しつくされて、細かいところにまで神経の行き届いた素晴らしい脚本である。
そして、画についても初っ端のお花畑の絵から度肝を抜かれた。何層にも及ぶレイヤー構成と、3D を駆使した CG による背景画が、写真を絵画風に加工したのではないかと思うくらいのタッチなのである。
ただ、そこに、如何にも平面アニメ風の(そして、髪の毛も服の皺もあまり丁寧に書き込まれていない)キャラクターが載っているというアンバランス、気持ちの悪さがあるのは確かである。特にその精密な背景も動いている(これはこれですごいことではあるが)前で、昭和以来の省略手法のアニメが動いている違和感はある。
だが、そういうのは観ているうちに完全に吹っ飛んでしまうのである。主人公・花(宮﨑あおい)とおおかみおとこ(大沢たかお)のこどもである長女・雪とその弟・雨の、なんと生き生きした表情だろう!(宮崎あおい)
パンツの見え方まで含めた、なんという幼児らしい動き、そして、そこから狼に変身した時の、なんという狼の子供らしい動き。いずれもその所作のリアルさと可愛さは半端ではない。
お転婆な雪とひ弱な雨の対比も良い。そして、そこから別々の方向に成長を遂げる2人。そこに割り振られた台詞も見事である。
エピソードの重ね方、話の進み行きも巧みである。花の妊娠から出産までの約1年を台詞ゼロで描いたのはすごい演出だった。そして、狼になったり人間の女の子に戻ったりしながら走り回る雪の、なんとも言えないリアリティ。
中学生になった雪が同級生の草平に本当のことを語る時の教室のレースのカーテン。大雨の日に雨がいなくなったあと、取り残された花の姿が逆さに映る大きな水たまり。お話と絵がしっかりと噛み合っている。
パンフを読むと、この話は花と雪と雨の3人の成長物語、という風に捉えられているようだが、僕は雪と雨の親離れという要素を強く感じた。そして、それは花にとっては子別れの儀式でもある。そして、全てを見終わったときに、おおかみおとこが花と巡り会えたことの安寧がじんわりと伝わってきた。
洋服の皺こそあまり書き込まれていないが、スタイリストまでつけたという主人公たちのファッションにもこれまたリアリティがある。この映画はそういうふうに、細部の細部にまで気配りの怠りない、人間の、そして大自然の息吹を感じさせる作品であった。
名作である。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
Comments
初めまして。
少し前からこちらにお邪魔して、記事を読ませていただいています。
今回の記事を読んで脚本家・奥寺佐渡子氏を知りました。
『時をかける少女』、『しゃべれども しゃべれども』、『パーマネント野ばら』、『八日目の蝉』を、
彼女の脚本と知らずに見ていたことに驚き、
『サマーウォーズ』も見てみようという気になりました。
今月の終わりにCSで放送があるので、ぜひ見てみたいと思います(゚ー゚)
Posted by: リリカ | Sunday, August 05, 2012 09:23
> リリカさま
僕の記事がそういう形でお役に立つのは望外の喜びです。ありがとうございました。
Posted by: yama_eigh | Sunday, August 05, 2012 10:32