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Tuesday, August 14, 2012

映画『かぞくのくに』

【8月14日特記】 映画『かぞくのくに』を観てきた。朝鮮籍の在日コリアン女性であるヤン・ヨンヒ監督の実体験を基にした作品なのだそうである。

僕はノンフィクションの世界には詳しくないので知らなかったが、ヤン監督は北朝鮮をテーマにしたドキュメンタリ映画でいろんな賞を獲ってきた人で、この映画が第3作にして初のフィクションなのだそうである。

しかし、それにしてもよく客が入っている。僕は単にその噂を聞いて観に来た口だが、かなり政治的なテーマなのに、一体みんな何を求めて観に来ているのだろう?

如何にも在日コリアン一家っぽい親子4人連れの観客もいたが、そういう 人たちばかりでもあるまい。

ともかく重いテーマである。

1997年のある日、ソンホ(ARATA改め井浦新)は16歳の時に家族を日本に残したまま北朝鮮に「帰国」して以来、25年ぶりに日本に戻ってくる。

もう、この冒頭だけでびっくりである。当時多くの人を、それもこのソンホのような若い人たちを北朝鮮に「帰国」させる「事業」があったとは僕は全く知らなかった。

それだけでも驚いたのに、そんな人たちの中に日本への一時帰還を認められた人がいたことにもう一度驚いた。

ソンホの場合は、脳に腫瘍が見つかって、北朝鮮の医療環境では治療不可能なため、治療のために日本に来たのである。病気を治すことが彼の「任務」なのだと言う。

と言っても、認められた期間は3ヶ月。3ヶ月経ったら、病気が治っていようがいまいが、帰国しなければならない。命令には絶対服従で、有無は言わせない。

しかも、ソンホには「事故が起こらないように」という理由でヤンという見張りがついている。そして、ソンホ自身も何やら国から「特命」を帯びているような気配がある。

この見張りの部分はヨンヒ監督の創作だそうだが、「帰国」した兄がいることも、その兄が日本に一時帰還したことも、そしてその間のいろいろな様子も、また、突然電話がかかってきて北朝鮮に引き戻されてしまったことも、全て事実に基づいているという。

今でもヨンヒ監督は兄たちを人質に取られている立場であり、また実際に北朝鮮からの圧力もかかっていると言う。

やりきれない話である。

現代の日本に住んでいると、自分で選べないことがあるということ自体が仰天すべきことであり、ゆゆしき事態であるが、かの国では自分自身で決められることなんてほとんど何もない。

そして、その国の国民であるということが、すでに自分では選べないことであるという二重の構造がある。

いや、それは日本人だって同じと言われるかもしれないが、日本人なら望めば国籍は変えられる。

この映画の痛々しさは、そもそも「在日」という二重構造と差別にもがき苦しみながら、その中で自らの意志で「朝鮮籍」を選びとり、そして「帰国」し、皮肉にもその結果自分の意志では何も決められなくなったという泥沼である。

パンフには「映画は、北朝鮮と日本の関係、帰国事業、ヤン・ヨンヒ監督の実体験に基づく物語と固有のテーマを描いているように見えるが、根本にあるのは普遍的な『人はどう生きていくのか?』(以下略)」とあるが、悪いけどいきなりそこにたどり着くのは無理だ。

テーマはあまりにも政治的である。我々の思いはまずそこに向かう。そして、なすすべなく憤る。愕然と立ち尽くす。

そこから抜け出して人間の普遍的なテーマにたどり着くには実際かなりの時間がかかるのではないだろうか?

それでも、この映画が単なる政治的な言説に留まらず、観客がそれを他人事ではなく我が事として受け止めることができ、そこに人間としての共感と深い余韻があり、僅かながらではあるが救いも感じられるのは、ひとえに役者の素晴らしさと、現場で何度も修正されたという演出の冴えである。

北朝鮮に帰るために車に乗るソンホと、無言でそれを阻止しようとする妹・リエ(安藤サクラ)のシーンは圧巻である。

息子を黙って送り出すしかない母(宮崎美子)が取った行動も胸に染みる。

『白いブランコ』の歌やスーツケースのエピソードなど、小物のあしらいも非常に上手い。

ひょっとしたら、そういうところまで評判になって、これだけの入りに繋がっているのかもしれない。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

ラムの大通り

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Comments

こんにちは。
「帰国事業」ですが、
確か『パッチギ!』でも
そのエピソードは出てきたかと…。
『ヘルタースケルター』のレビューで、
そのタイトルが出てきたので思い出しました。

Posted by: えい | Sunday, August 19, 2012 at 19:26

> えいさん

ああ、なるほど、そうでしたっけね。『パッチギ!』の時は、僕は勝手に、みんなが自主的、自生的に「帰国」したものだという風に捉えて見ていたので、気づかなかったのかもしれません。今回そういうことを「当局」が「事業」として奨励していたのだということを知って、ちょっと驚いたのでした。

Posted by: yama_eigh | Sunday, August 19, 2012 at 19:48

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