既成の女王
【7月27日特記】 昨日母の家に行ったら、テレビがついていて、懐メロ番組をやってた。何人かの女性歌手がフィーチャーされて、彼女たちの昔の映像が次々に出てくる。
僕が観るとしたら、興味が湧くのは後半の山口百恵や南沙織やキャンディーズなのだが、たまたまその時間帯はまだ番組前半で、江利チエミや美空ひばりの特集をやっていた。
で、見るとはなしに見ていて、初めて美空ひばりの魅力がちょっとだけ解ったような気がした。
江利チエミに対しては別段思いはないのだが、当時小学生の僕にとっては、美空ひばりというのは、旧い時代を代表する存在であり、倒すぺき既成の女王であった。
いや、音を聴いてそう思ったのではない。歌の最初のワン・フレーズを聴く前から、すでに美空ひばりは敵性の存在であったのである。
その後、僕も長じるに従って、彼女の数あるヒット曲の楽曲としての素晴らしさは充分に解るようになったし、彼女の歌唱力の卓越性もしっかり認識した。
しかし、いつまでたっても、それが美空ひばりという実体を纏った途端、それは瞬時にして敵意の対象となるのであった。──そんな美空ひばりを、昨夜は生まれて初めてちょっと良いかな、と思ったのである。
時が経つというのは恐ろしいことだ。いろんなものが溶け出して、いろんなものと折り合いがついて行く。
そして、その一方で僕は思った。僕らはこうやって戦うべき敵を失って行くのかもしれない、と。年を取るってそういうことなのかもしれない。
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