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Saturday, July 21, 2012

映画『ヘルタースケルター』

【7月21日特記】 映画『ヘルタースケルター』を観てきた。岡崎京子の原作漫画は、それが世に出てかなり経ってからであるが、2004年に単行本で読んだ。強烈な印象を受けた。だが、例によって詳細はあまり憶えていない。

ただ、今回りりこを沢尻エリカ様が演じると聞いて、それは何が何でも見なければ、と思った。これほどの嵌り役があるだろうか。というか、この役をできるのは沢尻エリカだけだろう。

しかし、不安があった。それは監督が蜷川実花であるということ。僕にとってはただ綺麗な画を撮るだけの監督という印象である。

そんなにしょっちゅうあることではないのだが、『さくらん』は WOWOW から録画して見始めたものの、あまりにつまらなくて、とうとう途中で投げ出して消去してしまったのである。

しかし、今回観に行って良かった。不安は拭われた。

原作の違いなのだろうか? 僕は『さくらん』の原作を読んでいないので、原作同士の比較をすることはできない。あるいは原作を読んでいるかいないかという違いだったのか? この『ヘルタースケルター』については原作の息吹と言うか、脈動と言うかがしっかり映画の中に根付いているのを感じる。

ただ、蜷川実花はやっぱり基本的にフォトグラファーである。流れや動きを追う人ではなく、瞬間を切り取る人である。だから、必然的にカット割りも細かい。だから、観ていると少し疲れる。リズムが速いばかりで変化がない。

長回しは使わない。たまに少し長めのカットもあるが、ふいにカットが変わって、ああ、僕だったらもう少し同じカメラで辛抱するけどな、などと思う。

そして、僕が思うに、蜷川実花は構図の人と言うよりは色彩の人である。この色彩感覚は『さくらん』の時と同じ印象であるが、今回は特にファッション界が舞台なのでカラーリングは思いっきり華やかで、服もメイクもネイルも本当に絢爛たるものである。

そこへ持ってきて、もとより蜷川実花は多分写実よりもイメージに走るタイプであり、加えてストーリーの上でもりりこの幻視が出てくるので、現実の風景の上に、さらに幻想的な色が次々に重ねられて行く。

絵の具が塗り重ねられる感じではなく、スポットライトが何重にも当たる感じ。色が重なれば重なるほど明るくなってくる。

映画の出だしは全身美容整形を受けて(と言っても写実的なシーンではなく、あくまで映画を始めるにあたって提供されるイメージなのだが)包帯でグルグル巻きになったりりこである。

包帯越しに乳首の形が分かる。そして、包帯を解いて胸があらわになる。その乳首のなんと可愛らしいこと。僕は思わず吸いたくなった。

って、何を馬鹿なことを書いている、と思われるかもしれないが、この映画に於いてはこういうことがちゃんと描けているかどうかがとても重要だと思う。しかも冒頭である。欲情させるところでちゃんと欲情させることのできるりりこでなければ、ヘルタースケルターは始まらない。

今さらストーリーを書くこともないと思うが、一応書いておくと、目玉と耳とアソコ以外は全部作り物と言って過言ではないトップモデル・りりこが主人公である。そして、その彼女の身体が、無理な整形に耐え切れずに崩壊して行く話である。テーマもモチーフも極めて単純である。

僕は原作を読んだ時の書評にこう書いている:

作者はこの作品によって、綺麗になるためなら手段を厭わない風潮を糾弾しようとしているのではない。かと言って「それでもやっぱり綺麗になりたいよね」という女性共通の思いに優しく共感しているのでもない。だからと言ってそういう気持ちを冷たく突き放しているという態度でもない。

ただ、中立で冷静な観察者の態度。そして、その観察の対象はりりこという特定のキャラクターでも世間一般の女性でもなく、恐らく彼女自身の中に巣食う魔物なのだ。それが怖い。

グロテスクな作品である。ただ、グロテスクだからと言って拒否反応を起してしまう読者は、多分自分のグロテスクさにまだ気づいていない人たちなのではないだろうか?

上に書いたように、原作についてはもう詳細に憶えていないのだが、映画ではかなり枝葉を付けて映画らしく展開しているように思う。むしろ原作よりもある意味漫画的な展開になっているように思う。少しドキュメンタリー的なタッチも入れて、映画らしい工夫をしてある。

僕は沢尻エリカの映画は割合よく観ていてこれが7本目であるが、『パッチギ!』以来割合好きな役者である。雰囲気のある巧い役者だと思っている。ただ、この映画のエリカ様は今までのどのエリカ様より綺麗だ。本当に作り物みたいに綺麗だ。これがこの映画の一番のポイントだろうと思う。

そして、共演者が皆、上手い人ばかりである。りりこに虐げられるマネージャ役の寺島しのぶ、りりこを“作り上げた”事務所社長の桃井かおり──たとえ沢尻エリカが何の賞ももらえなくても、このうちのどちらかがどこかの賞の助演女優賞を獲るのではないかと思う。

そして、りりこのメイク係の新井浩文。今回は珍しい、髭面のオカマ役である。美容整形外科の院長に原田美枝子。その院長をマークしている検事に大森南朋、その部下に鈴木杏。沢尻エリカの超絶な美貌に対して、鈴木杏が対照的になんだか顔も浮腫んで、冴えない髪型のえらいブスになっているので驚く。

そして、りりこの彼氏に怪優・窪塚洋介(窪塚と沢尻のセックスのシーンが濃密)。この辺まで全部主演級である。

さらに、寺島しのぶの年下の彼に綾野剛、プロデューサに哀川翔、刑事に寺島進、りりこの後輩モデルで、やがてりりこの人気を抜き去ってしまうこずえに水原希子。いずれもしっかり役に嵌っている。

ノイズ的に入ってくる女子高生など街行く人の会話がものすごくビビッドでよく効いている。上野耕路によるゴージャスな劇伴が鳴りっぱなしで、正直うるさいくらい。それにしても大仰なメロディとアレンジで狂気じみた印象を残している。如何にも作品を貫くテーマに沿った形である。

アリモノのクラシックを持ってきたシーンもある。9番目の曲は驚きである。いきなりスケートを始めたのも驚かされた。

画作りの面で言うと、床に倒れた沢尻エリカの細い髪の毛にカプセルの錠剤が絡みついている画(浴槽ではなく初めのほうのシーン)と、桃井かおりの靴が脱げる演出が秀逸だった。

特にあそこで靴が脱げるなんて進行上全く必要のないことである。そういう細部に、この監督がこだわっているのはよく分かった。そう、細部にこそ生命は宿るのである。

しかし、蜷川実花はもうこれを上回る映画を撮ることは生涯ないと思う。いや、別に蜷川実花を貶めようとして書いているのではない。今回の企画がそれほどの嵌り企画だったという意味である。配役、脚本(金子ありさ)も含め、これはプロデューサの勝利だなあと思った。

トランプで言えば、最初に配られた札で、もう大きな役ができていたというような感じである。この映画のそういうマジックを是非感じてほしい。

男性客としては、ほんの短いワン・シーンで良いから、沢尻エリカの正面からの全裸のフル・ショットがほしかった。まあ、本人や事務所が撮らせるかどうかという問題もあるが、多分そういう発想を端から持たないのが女性監督の感性なのだろう。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

ラムの大通り

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