« ま、ぼちぼちやっとります。 | Main | 梅雨は明けたか? »

Monday, July 16, 2012

映画『苦役列車』

【7月16日特記】 映画『苦役列車』を観てきた。昨年芥川賞を受賞して、その凡そ作家然としない著者とともにちょっと話題になった小説の映画化である。が、僕は原作を読んでいない。原作を読んで映画を観てみようと思ったわけではない。

相変わらず監督で映画を選ぶことが多いのだが、この映画は山下敦弘監督である。2003年の『リアリズムの宿』以来、何等かの形で全部観ている。脚本のいまおかしんじという名前を見て、これは誰だったけ、と思ったのだが、あの『UNDERWATER LOVE -おんなの河童-』の監督ではないか!

なんという面白い組合せ。

しかし、よくもまあ、この私小説を映画化しようと思ったものである。字で綴るならやりようもあろうが、映像でとなると、この話はいささか料理しにくい素材なのではないだろうか?

舞台は東京、1986年。北町貫多(森山未來)は中学を出て以来、ずっと肉体労働をしている。「唯一の趣味は読書」と本人は言っているが、あと酒と風俗も「趣味」のうちだと言って良い、いや、肉体労働と読書と酒と風俗が生活の全てだと言っても過言ではない暮らしぶりである。

森山未來は、前作『セイジ 陸の魚』では、主人公と同じように、山深いロケ地まで何日もかかって自転車を漕いでやって来たらしいが、今回は撮影期間中ずっと三畳一間、風呂なし、トイレ共同の宿に泊まっていたと言う。

そうういう愚直な、と言うか、むしろ馬鹿馬鹿しい役作りが、しかし、彼の場合にはなんだかかなり奏功するようで、今回も見事に貫多になり切っている。冒頭の、風俗店から出てくるシーンからして、驚くほどやさぐれているのである。とてもあの『モテキ』の幸世と同じ役者がやっているとは思えない印象である。

『モテキ』の藤本幸世が草食系男子の典型だとしたら、『苦役列車』の北町貫多は、ある意味昨今絶滅しかけている肉食系男子であると言えるのかもしれない。しかし、あまりに肉食系、と言うか、なにしろ金払ってという形でしか女子と接触したことがないので、好きな相手ができてもどうして良いか分からず、いきなり彼女の手を舐めたりする有り様である。

そう言えば、映画の中で3人の人物が突然に「動物ごっこ」を始めるシーンがあるのだが、これなんか一見なんのことだかさっぱり分からん展開なのだが、これは貫多の動物性、野獣性を語る、と言うか、揶揄している、と言うか、却々奥深いメタファーになっている。

その、ある種「人間社会」とうまくコミュニケーションできない(笑)野獣・貫多と現実社会を繋ぐ役割をしているのが、同じ人足現場で知りあった日下部正二(高良健吾)である。この高良がまたとても良い。こちらはどちらかと言えば、今っぽい草食系男子である。

が、正二は貫多を疎まない。むしろ自分から近寄っていく。「どうせ俺は中卒だ」みたいな捻くれたことばかり言う貫太に対しても決して嫌な顔をせず、素直に彼の魅力を理解し、認めてやっている。

貫多は古本屋の店番の法大生・桜井康子(前田敦子)に惚れるのだが、この2人の間を取り持ってやるのも正二である。この康子は原作にはなかった登場人物だそうだが、さすがに映画にするにはこういう綺麗どころを1人くらいは入れておく必要があるだろう。

だが、この康子のキャラが、単なる彩りなどではなく、これまた非常に良いのである。何と言うか偏見から自由なのである。だから、貫多は救われるのである。

で、映画を見ながら、この先何が起こるというわけでもないのに、この映画どうやって閉じる?と心配になって来たのだが、何も起こらないとまでは言えない程度に何かは起こるのであり、それが貫多が生きるエネルギーにもなるし、映画の観客の心を繋ぎ止めることにもなる。

その鍵を握る人物である人足仲間のおっさんを演じたマキタスポーツがとても良い味を出している。

最後は少しチェンジ・オブ・ペースの意味もあって、『ユメ十夜』で見せたような幻想的な展開もある。

あまり奇を衒ったカメラワークなどはないが、貫多と康子の雨中のクライマックス・シーンでは長回しで2人の芝居をたっぷりと見せてくれる。

つまらないようで、なんだか余韻が残る映画なのである。

制作者が登場人物をを決して異端視せず、しっかり理解して、愛を持って描いているのがよく分かる映画だった。これは山下監督の前作『マイ・バック・ページ』(2011年度キネ旬ベストテン第9位)みたいに高く評価されることはないだろうが、如何にも山下敦弘らしい、ニュアンスたっぷりの作品である。

山下ファンであるなら観て損はないと思う。ただ、もしも山下監督の作品を1作も観たことがない人だったら、作品の魅力を充分読み取れないかもしれないという気がしないわけでもない。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

Swing des Spoutniks
ラムの大通り

|

« ま、ぼちぼちやっとります。 | Main | 梅雨は明けたか? »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/110115/55211584

Listed below are links to weblogs that reference 映画『苦役列車』:

» 『苦役列車』 [ラムの大通り]
----この映画、原作は芥川賞受賞だけど、 かなりエグイ内容だよね。 見るからに不潔そうなんだけど…。 「うん。でも作っちゃった。 この映画は、映画とは何かをあらゆる方向から 考えさせてくれる ぼくにとっては刺激的な作品だったね」 ----あらゆる方向からって? 「 そ...... [Read More]

Tracked on Sunday, August 19, 2012 at 19:14

« ま、ぼちぼちやっとります。 | Main | 梅雨は明けたか? »