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Saturday, June 16, 2012

映画『愛と誠』

【6月16日特記】 映画『愛と誠』を観てきた。

三池崇史という監督は比較的当たり外れの多い人で、前作の『逆転裁判』などは評判の悪かったものの最たる例ではないだろうか。で、今作も、そもそもなんで今ごろ『愛と誠』なのかよく解らんし、予告編見ると昭和の歌謡曲歌って踊ってるし、ああ、こりゃ、2作連続で滑ったか、と思っていたのである。

ところが、業界向けの試写会の後、twitter 上には絶賛の嵐が吹いた。多分、原作の漫画もしくは当時の映画化を知っている世代が、そして、昭和の時代と70年代の歌謡曲を知っている年齢層が喜んだのではないかと思っていたのだが、その後なんとヨーロッパでも大受けしたという。

となると、これは単なるノスタルジーでもパロディでもなく、真に映画としての力が評価されたということである。これは観ておかなければならない。

それにしても、この形は本当によく考えたと思う。あの原作を時々ミュージカルにして、しかも、当時の歌謡曲を歌って踊らせている。間の抜けたような、ピッタリのような絶妙の選曲なのである。48歳の伊原剛志が高校生・蔵王権太(なんと懐かしい名前!)に扮して、しかも歌うのは『狼少年ケン』だ!

小林武史の編曲も、原曲に近かったり現代風にしたりと自由自在で、パパイヤ鈴木の振り付けがこれまた可愛いのである。特に早乙女愛に扮した武井咲の『あの素晴らしい愛をもう一度』が素晴らしい。そして、愛の母親役が歌い出したらめちゃくちゃええ声で、誰やこいつ!?と思ったら一青窈だった。

かと思うと、いつもの三池らしい強烈な暴力/乱闘シーンもしっかりある。スケバンたちとの決闘シーンでは、なんと一人の男子高校生が無数の女子高生たちを殴る蹴る突き飛ばすという、日本映画史上おそらく前代未聞のシーンになっている。

そして、新宿の地下街やら歌舞伎町やゴールデン街やら、花園実業高校の荒れ果てた校舎やら、怪しげな純喫茶やら、そのセット/美術の面白さは半端ではない。おまけに、スキー場で誠(妻夫木聡)が愛を助けて額に傷を負う冒頭のシーンはなんとアニメーションではないか!

そして、誠の額の傷の特殊メイクが、わざと安物の作りで、まるで昭和の怪獣映画の着ぐるみみたいな出来なのである。こういう遊びがとても面白い。ともかく遊びは随所にある。見ていて何度かニヤッとし、何度かは吹き出した。

原作を全然知らない若い世代のために書いておくと、当時あの原作を皆が100%真剣に読んでいたわけではない。僕らも今と同じようにツッコミを入れながら読んでいた。とは言え、一方でツッコミを入れながら、他方であの早乙女愛の完璧なまでの無償の愛に対しては、僕らは心のどこかで敬愛を覚えていたと思う。

そんな感じを、この映画は見事に現代に甦らせていると思う。どこまでも真面目だった当時の早乙女愛ではなく、時々おどけて見せる現代版の早乙女愛にして、遊びながらではあるが、あの時梶原一騎が描こうとしていたのと同じ物がここにあるように思う。

この映画はパロディであり、エンタテインメントであるのは確かなのだが、そんなしつらえの奥にしっかり時代を描いているのが凄いと思う。そう、あの、今思うと小っ恥ずかしい感じもそのままに。そして、もっと奥にはどこか不思議な普遍性があるのである。

この作品の中心は何と言っても早乙女愛である。知らない人のために書いておくと、この漫画が映画化された時に早乙女愛を演じたのが早乙女愛であった。もちろん、映画から採った芸名である。この早乙女愛の早乙女愛が見事な嵌り役で、早乙女愛は早乙女愛のイメージで完璧に固まってしまった。

それが証拠に、早乙女愛を演じていたのが早乙女愛であることは思い出せても、一体誰が太賀誠を演じていたのかは憶えていない。映画が終わってからパンフを読んだら、早乙女愛が何作にも渡って早乙女愛を演じたのに対して、太賀誠役は映画ごとに違っていたらしい。

その一人目の太賀誠役が西城秀樹で、そういうこともあって、妻夫木聡は西城秀樹の『激しい恋』を歌って踊っていたのである。

今作で早乙女愛を演じた武井咲は、あの早乙女愛の早乙女愛のイメージそのままで、いや、早乙女愛の(時代のせいもあるが)少しイモ姐ちゃん風のイメージを削ぎ落して現代の少女にアレンジした今風の早乙女愛で、これは見事なキャスティンであると舌を巻いた。

太賀誠のほうは、本来的には妻夫木聡では線が細すぎる。もう少しガタイの大きい、武井咲とももっと身長差のある俳優が演じるべきだと思ったのだが、これはこれで面白かった。

そして、脇を固めている斎藤工の岩清水君(これまた何と懐かしい名前!)と安藤サクラのガム子がまた絶妙である。気になったのは斎藤工のピアスの穴(あの当時、そんな男はいなかった)だけである。面倒くさくても消しておいてほしかったなあと思う。

純愛あり暴力あり、笑いあり涙あり、歌あり踊りあり、特撮ありアニメあり、そして度肝を抜くセットがあり(トイレの個室で男女が歌いながら踊るか、普通?)で、映画というものが如何に総合芸術なのかを今の若い観客に教えるような作品だった。今日はガラガラだったけど、まあ一度ご覧になれば良い。決して損はしないと思う。

しかし、あれだけ絶妙の歌と踊りがありながら、ラストの部分では単にタイアップ曲を流してスタッフロールというのはやや画竜点睛を欠いた気がする。最後はやっぱり全員による歌とダンスのフィナーレで〆るべきではなかったのだろうか。

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 今回の映画化は原作好きの者にとっては喜ばしいかぎりです。
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・ 梶原一騎ファンサイト『一騎に読め!』 http://www.myagent.ne.jp/~bonkura/

Posted by: 『愛と誠』愛好家 | Thursday, June 28, 2012 at 21:05

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