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Sunday, June 24, 2012

映画『はさみ hasami』

【6月24日特記】 映画『はさみ hasami』を観てきた。光石富士朗監督の前作『大阪ハムレット』が良かったので次作も見たいと思っていたのだが、それにしても東京で公開されてから関西に来るまで一体何ヶ月かかっただろう。

例えば京都とか、関西ではあっても僕があまり行かない都市の映画館で上映していたのかもしれないが、僕が見つけたのは今回が初めてである。しかも、元町映画館などという、よほど注意していないと見逃してしまう二流館で、1日1回のみ・1週間限定の上映である。

しかし、とはいえ、いや、だからこそかもしれないが、場内はほぼ満員であった。

原作はなく、光石富士朗と木田紀生によるオリジナル脚本である。

舞台は東京・中野にある理容美容専門学校。生徒たちは皆、一応学校に通いながら理容師・美容師を目指してはいるのだが、それぞれにいろいろな悩みや問題を抱えており、ともすればくじけて落ちこぼれてしまう。

そんな生徒たちを何としてもドロップアウトさせまいと、勤務外の時間まで必死になって生徒たちの面倒を見ようとする、往年の金八先生のような教官・久沙江(池脇千鶴)。久沙江の上司であり、久沙江がこの学校に通っていた当時の指導官でもあった築木(竹下景子)。

カットの技術習得に悩み、彼氏の仕事の行き詰まりとも同調して苦しんでいる弥生(徳永えり)。弥生と親友になる、技術的にはクラス一番だが実家の貧乏に足を引っ張られるいちこ(なんしぃ)。親との不仲から一時はひきこもりになったが、なんとか美容師の資格を取ろうと頑張ってはいるものの、どうしても対人関係に自信が持てない洋平(窪田正孝)。

以上の5人がメインの登場人物である。池脇千鶴と徳永えりという、僕の大好きな女優が2人出ている。窪田正孝はどこかで見た奴だと思ったら『古代少女ドグちゃん』の「誠」役である。なんしぃは吉本興業の芸人で、「大好物」というコンビ名で舞台に上がっているらしい。

暑苦しい話である。こっ恥ずかしい話である。なにしろキーワードは「いっしょうけんめい」なのである。今どきこういう青春ドラマみたいなストーリーは若い人たちに受け入れられるのだろうか?

ただ、この映画の良い所は、安物の青春ドラマみたいに一気に何かが解決したり改善したりしないところである。久沙江先生の頑張りでみんなの悩みは見事に雲散霧消しましたとさ、となるとそれは空々しい嘘になってしまう。

劇中の台詞にもあったように、情報洪水の時代の中、若い人には若い人なりの悩みがあるのである。それを大人の目線でけしからんとか甘えるなとかいう描き方は決してしていない。「頑張ればできる」的な台詞はあるが、「希望に満ちた未来」を描いてはいない。

そう、彼らの悩みはむしろ、決して雲散霧消することはなく、寄せては返す波のように一進一退なのである。でも、ひょっとするとそこを乗り越えた先に何かが見えるかもしれなくて、あるいは見えないかもしれなくて──。

これは若者たちの話ではなく、そんな目線で、のた打ち回る若者たちを優しく、しかし冷徹に見守っている大人たちの話であると言ったほうが良いのかもしれない。

カメラは時折ものすごい長回しになって、ワンシーン・ワンカットで役者たちに長いブレスの芝居をさせる。役者たちがうまいので、その演出によく応えている。

まあ、生きていくのは大変なことである。そう、生きていくのはどの道大変なことなのである。それをまず若者に解らせ、覚悟させようとする、ちょっと説教臭い話なのだが、あんまり説教っぽくならずに良いバランスに収めたと思う。

一点だけ残念に思ったのは、生徒のために奔走する久沙江の私生活がまるで描かれない(最後のほうのシーンでやっと久沙江の自宅が映る)ので、それが久沙江という人物を成り立たせるリアリティを不足気味にしているということ。

冒頭、自転車で職場に向かう久沙江のシーンから始まったが、これを朝、久沙江が目覚めるところから描いておけば良かったのではないかと思う。

割と地味な映画だったが、割と良い映画だったのではないか。中野を中心とする中央線沿線の風景も僕には懐かしく、人間の息吹が感じられた。

ストーリーをもっとひねろうと思えばひねれたはずだが、あえてそれをやらずに鈍臭く描いてみたかったのだろう。そう言えば、映画の中で築木が久沙江に「相変わらず鈍臭いわね」と言うシーンがあった。とても愛情を込めて。

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