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Thursday, April 12, 2012

ゴミ箱からの提案

【4月12日特記】 僕は時々他人から「変わってる」と言われる。自分でもまあそうかもしれんと思う。少なくとも、「変わってる」と言われたことを喜ぶことはあっても気に病むことはない。そこがすでに変わっていると言えば変わってるのかもしれない。

でも、誰しも他の人と全てが同じのはずがなく、どこかは「変わってる」わけで、そういう面からすると、変わってるところが多い僕らのほうがよく見えることもある。

例えば、目覚まし時計を買いに行った時の話。結婚して新居に移る際だったので、もう20年以上前の話だが。

店員がどんな時計を探しているのかと訊くので、僕は「音の静かな時計」と答えた。「音の静かな」というのには2つの意味があって、ひとつはアラームがうるさくないもの。

僕は寝覚めは非常に良いほうで、目覚ましが鳴ってるのを知らずに寝てたとか目覚ましを止めた記憶がないなんてことは生涯1回もない。リッと鳴ったらパッと起きるタイプなのである。

だから、アラームがうるさいのは余計なのだ。ドキッとするから嫌なのだ(そういうわけで今は Sleep Cycle で起きている)。

それからもうひとつは秒針の音がしないことである。今でこそ改善したが、若いころ僕は相当寝付きが悪くて、「ああ、また寝られない」と思っているうちに、秒針が刻むコチコチいう音が気になり始めるとなおさら眠れなくなっていた。だから、どうしても秒針が無音の時計がほしかったのである。

で、今でこそ目覚まし時計にはいろんな種類、いろんな売りのものがあるが、20年以上前には「目覚ましというものは叩き起こすことが主目的だ」という考えに支配されていたので、音が静かな目覚まし時計は数が少なかったし、少なくともそれを売り物にしている商品はほとんどなかったのである。

だから、店員は困った。それで、「えっと、音があまり大きくないのはこれと、えっと、それから、これなんかは音はそれほど小さくないですけどよく売れている商品で」などと言い出した。

僕はげっそりするよりも前に驚いた。

僕は第一条件に「音が静かな」ということを挙げたのである。音が小さくないのであれば、買わないのである。もちろん説明も聞きたくないし、手に取る気もない。なのに店員は音の小さくないものであっても薦めたら買うかもしれないと判断したのである。

こいつはナニ人だ? いや、多分この店員の想像力では、音の静かな目覚ましを求める客がいるなんてことを受け入れられなかったのだろうと思う。

もちろん、「音の静かな」と言っておきながら、他に性能の優れたものがあると買ってしまうような一貫性のない客もいるにはいるだろう。しかし、僕は違うのである。音が静かであることが最優先課題であり、そうでない商品は買わないのである。変わった客なのである。

そして、そういうことを見抜いて行くのが店員の仕事であり醍醐味ではないのだろうか? それは難しいことではない。「えっと、全く無音でないとダメですかね?」などと投げかけて反応を見れば良いのである。

閑話休題。

今度は2002年に東京に単身赴任した時の話。不動産屋に行って「どういう物件をお探しですか?」と訊かれて、僕は開口一番「宅配ボックスがあるところ」と答えた。これもさっきの時計と同じような話である。

他にも条件は挙げたが、ともかく宅配ボックスがあることが最優先課題なのであった。なのに、不動産屋の担当者が持ってきた資料の中には、「これは宅配ボックスはありませんが」という物件が混じっていた。

僕は愕然とした。

僕は「宅配ボックスがある」ことを第一条件として挙げた。宅配ボックスがあるマンションでなければ、他の条件がどんなに素晴らしくても契約する気はないのである。多分、そんな客がいるなんて彼の想像力を超えていたのだろう。

もちろん、宅配ボックスにこだわる素振りを見せていても、他の条件に釣られて心変わりする客もいるだろう。だが、僕は違う。宅配ボックスがないマンションには何が何でも入らない変な客なのである。

そして、その辺のところを見抜くのが不動産屋の仕事であり醍醐味ではないのだろうか? それはそんなに難しいことではない。「じゃあ、『宅配ボックス』で検索かけて、そこから漏れた物件は全部外しちゃって良いですか?」と振ってみて、相手の反応を押さえて行けば良いのである。

以上2つの例、目覚まし時計とマンション──僕はどちらのケースでも、ひょっとしたら僕が帰ったあと、「今日は変な客来よったわ。目覚ましやのに音の静かなんくれ言いよんねんw」とか「世の中には変わった奴いるよね。宅配ボックスなかったら借りないっつーんだからw」などと嗤われていたのかもしれないなと思う。

それは僕の考えすぎやひがみであると言われるかもしれないが、別に腹を立ててそう言っているわけではない。

人は自分の想像力を超えた事象に遭遇すると、往々にして「例外」と書いたゴミ箱にそれを投げ込んで終わりにしてしまう習性があるということだ。

でも、それをゴミ箱に投げ込まずに今後の参考にしてくれれば、僕らみたいな奴がゴミ箱から這い出してきて時計を買ったりマンションを借りたりすることもあるのにな、と思うのである。

随分長くなった。こんなこと書くって、やっぱり変わってるんだろうか?

何度か書いているけれど、僕は多様性に対する許容力こそが社会の成熟度を測る尺度なのではないかと思っている。

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