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Sunday, April 15, 2012

映画『KOTOKO』

【4月15日特記】 映画『KOTOKO』を観てきた。やっぱり唖然としてしまう。この塚本晋也監督のセンス。

まず、血とか傷とか、痛いのが嫌いな人は見ないほうが良い。主人公の自傷のシーンがこれでもかこれでもか、さらにこれでもかと出てくる。自ら出演する塚本晋也も顔がへしゃげて血まみれになっている。なんでこんな映画を金払って観てるんだろう、と我ながら思う。

主演はシンガー・ソングライターの Cocco である。主演だけでなく「企画・原案・美術・音楽」にもクレジットされている。塚本晋也による Cocco への当て書き、と言うよりも、2人で議論しながら脚本を組み立てて行ったとのことだ。

Cocco という人には狂信的なファンが大勢いる。僕はファンではない。この映画を観てファンになるということもなかった。が、塚本晋也は以前から、狂信的かどうかは知らないが、かなりの Cocco ファンであったようだ。

その2人が親密に話し合って練り上げた企画という匂いがプンプン漂ってくる。Cocco が歌う長いシーンを作ったのも塚本監督の Cocco に対するリスペクトの現れなんだろう。それだけに、塚本ファンではあっても Cocco ファンでない観客は、ちょっと入って行きにくい感じがする。

ストーリーは、ある意味いつもの塚本作品であり、ホラーである。

ひとりの人物が2人に見えてしまう琴子(Cocco)。単なる幻覚であるが、そのうちの一方は必ず凶暴な顔をして琴子に襲いかかってくる。そして、琴子には大二郎という赤ちゃんがいる(夫はいない)。琴子はその大二郎が危ない目に遭うという幻想に常に取り憑かれていて、いつも錯乱状態である。

やがて琴子に児童虐待の疑いが持たれて、大二郎は一時沖縄の姉が預かることになる。そこに現れた有名作家の田中(塚本晋也)。彼はバスの中で琴子の歌声を聴いて一目惚れし、ストーカーのように、しかし無限の優しさをもってつきまとう。

そんな話である。ひとことで言って、これは狂気である。いや、決して狂気などではない、という解釈をする人もいるとは思うが、僕はこれは紛れもない狂気であると思う。尋常な世界、尋常な人物ではない。端的に異常である。

しかし、異常でありながら、それは僕らと無関係な異常ではなく、僕らの精神と地続きの異常、僕らがいつ陥っても不思議でない異常という感じがする。言わば狂気に普遍性を持たせてしまうところが、塚本晋也の表現者としての実力なのだと思う。

いつも通りハンディカメラが揺れる。シーンによってはいろんなものが識別できないくらいに激しく揺れる。観ていて酔いそうになる。そして、ところどころでものすごく長いワンカットになったりする。怖いシーンを怖いトーンで撮り続ける。ひりひりするような、あるいは生爪剥がされそうな不安と恐怖。

台詞のある登場人物はほとんど琴子と田中だけであると言っても良い。その田中を演ずる塚本晋也がめちゃくちゃに巧い。

そして、特撮がある。皮膚が破れる、血が滴る、傷が腫れる。狼狽して、子供が死ぬと絶叫する。

ここには7年間の介護の末に亡くなった塚本の母と、それと入れ違いみたいに生まれてすくすくと育った塚本の息子の姿が投影されている。そして、東日本大震災と原発事故の恐怖と不安が明らかに反映されている。

パンフに社会学者の宮台真司が解説を書いている。全般的に僕はあまり共感を覚えないのだが、しかし、以下のパートだけはまさにその通りだと思う:

この作品は園子温監督の『ヒミズ』と並んで直接に震災と原発人災に直接応答した数少ないチャレンジの一つでもある(「直接」の重複は原文のママ)

これから観る人のために詳しく書かないが、ラストが良い。途中の布石が利いたとても良いラストである。こういうところを見ると、やっぱり塚本晋也ってただのホラー作家ではないと思う。

そして、この映画がただの暴力でも狂気でも異常でもなく、また、単に Cocco のパフォーマンスでもなく、いろんなものを読み込んだ、深い深い映像芸術であることが解る。

途中、血と暴力と狂気にげっそりしたけど、結局感服してしまった。他の作家には決して書けない物語であり、決して撮れない映像だと思う。

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