WOWOW 『人間昆虫記』
【2月1日特記】 録画したまま放ってあった WOWOW の『人間昆虫記』を2日かけて見終えた。手塚治虫の漫画が原作で、基本30分枠×7話(ただし、初回と最終回は10分枠大)の構成である。
脚本は全部高橋泉が書いていて、演出は高橋が自ら当たっている回と白石和彌が担当している回がある。
高橋泉と言えば、廣末哲万と組んだ『ある朝スウプは』や『14歳』で観客の度肝を抜いた脚本家/監督である。ずっとそういうマイナー、アングラ路線で行くのかと思ったら、最近では『ソラニン』や『ランウェイ☆ビート』などでも達者なところを見せている。そう、本当に「達者な」という表現が合う作家である。
一方の白石和彌と言えば、僕は見逃してしまったのだが、非常に評判の高かった映画『ロストパラダイス・イン・トーキョー』でデビューを飾った人だ。
それに加えて、主演の美波、ARATA という結構渋いスタッフ/キャストで却々見応えのある作品になっているのが嬉しい。
主人公の十村十枝子(美波)は大女優・西川敬子(久世星佳)に憧れて無理やりその劇団員に加えてもらい、いつの間にか敬子の演技を盗んでしまう。そして、その敬子の愛人でもある座付き演出家・蜂須賀兵六(手塚とおる)まで奪い取って、あっという間に主演を張ることになる。
ところが今度は蜂須賀の演出方法を盗んで自分のものとし、蜂須賀を追い出して自らの出演・演出で大成功を収めてしまう。
次には劇団の仕事を請け負っていたデザイナー水野(ARATA)に接近し、彼のデザインを盗んでNYのコンテストに出品して入選してしまう。一方で、同居していた劇作家の卵・かげり(広澤草)の戯曲を盗んで小説にアレンジし、応募して掲載され、権威ある文学賞まで獲ってしまう。
──これを読んで分かるように、展開にはあちこちに無理があるのだが、他人の能力を吸い取って、昆虫のように変態を繰り返す女という設定が面白い。
そして、吸い取られて捨てられた男たちは、誰も十枝子のことを恨んでいない。それどころか、十枝子のためなら自分の命を賭けることさえ厭わない。それに対して十枝子はどこ吹く風で、この後も次々と新しい手口でのし上がって行く。
ただ、どんなに十枝子がのし上がっても、結局彼女が唯一本気で好きだった水野の心だけは奪えなかった、という哀しい筋である。
で、僕は原作を読んでいないので、どこまで原作に忠実なのかは分からないが、何とも言えぬ手塚治虫フレーバーを感じるのである。いかにも手塚治虫らしい、寓意を含んだ面白い設定であり、いかにも手塚治虫らしい登場人物の動きであり、ストーリーの進み行きなのである。
この辺は意識した演出なのだろう。見事だと思う。例えば最終回に登場する2人の刑事がともに帽子をかぶっているところなど、現代ドラマではあり得ない設定なのだが、そういうところにも手塚治虫に対するリスペクトが現れているように思えた。
先ほども書いたように、少し話が飛びすぎるところもある。だが、何とも言えぬ雰囲気があるのである。
ARATA という様々な映画に出まくっている俳優とは対照的に、美波という今までそれほど注目されることもなくやってきた女優が果たした役割が、ここではすごく大きいと思う。
『乱暴と待機』の彼女も良かったし、そうなると次の『アフロ田中』も見ざるを得まいか、と心が決まった。上手い下手よりも、とても印象の強い女優さんになったと思う。うん、何だか捨てがたい。
結局このドラマは手塚治虫、高橋泉、美波の3人に集約されてしまう気がする。却々面白かった。
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