映画『荒川アンダーザブリッジ THE MOVIE』
【2月4日特記】 映画『荒川アンダーザブリッジ THE MOVIE』を観てきた。
この映画を観る人は、まずは原作漫画のコアなファンだったり、僕のように原作は全く知らなかったのだけれど、この映画と同じスタッフ/キャストによるテレビ・シリーズを見て嵌ってしまった人だったり、あるいは、出演者の林遣都や桐谷美玲や小栗旬や山田孝之の熱狂的ファンだったりするのだろう。
しかし、僕がもともと興味を持ったのはそのいずれでもない。テレビ・ドラマと映画の両方を監督したのが飯塚健だったからだ。
僕はこの人の劇場公開映画を2本見ている。1本は2006年の『放郷物語』、もう1本が2007年の『彩恋 SAI-REN』である。とても才能のある監督だと思った。ちなみに、この2本ともに出演しているのが、このAUTBではステラを演じている徳永えりである。
そういう興味から、まず2011年7月期に放送されたドラマを観た。
なんじゃ、そりゃ、という感じのドラマだった。最初の1話、2話あたりは観ていてとてもしんどかった。いくらなんでも、こんな荒唐無稽でどうする?という感じだった。
それが、3話、4話と続けて観るうちに、いつの間にやら見事に嵌ってしまった。何が何だか全然解らないのに、解らないまま不思議に深い感慨を与えてくれる──そういう作品ってたまにあるのである。まさにこれがそういう作品だった。
先に試写を観た人から、「映画で初めて観る人にはそれなりに面白いだろうけれど、テレビ・シリーズを好きだった人にはあまり面白くないかもしれない。映画のほうは親子の絆みたいなテーマを割合はっきり打ち出して、ストーリーの運びも重視した作りになっているから」と聞かされていて、少し心配しながら見に行ったのだが、それは全くの杞憂だった。
ドラマのほうでは河川敷の14人の住人たちのエピソードが毎回順番に丁寧に綴られていたが、映画では完全にリク(林遣都)のストーリーになっている。司馬遷の『史記』になぞらえるなら、テレビ版では14人の列伝風の構成であったものが、リクだけを本紀に引き上げた感じである。
で、そもそもテレビと映画を平行して撮っており、テレビで観たシーンもふんだんに映画に使われている。多少切り貼りして順序を入れ替えたところもある。ただ、ビリー(平沼紀久)とジャクリーン(有坂来瞳)の前日譚とか、ラストサムライ(駿河太郎)のP子(安倍なつみ)への片思いなどのエピソードはばっさり落とされて、あくまでリクとニノ(桐谷美玲)中心のストーリーになっている。
全く知らない人のために少し出だしのストーリーについて書いておこう。
大企業の社長の御曹司・行(林遣都)が、荒川の再開発のため、不法占拠している住民を追い出すために河川敷に潜入してみたら、そこには河童のコスプレをした村長(小栗旬)や金星人のニノ(桐谷美玲)や星形の特殊メイクをしたロッカーの星(山田孝之)らがいて、そこでは行はリクと呼ばれることになった、という、まあ、聞いても何のことやら解らない筋である。
ところが、細部はいちいち意味不明でも、メッセージはビシビシ伝わってくる。生きるということの切なさがさりげなく描かれていて、変なとこで泣けてきたりする作品なのである。ギャグとナンセンスに終始しているようでありながら、実はガツンッと胸に迫ってくる映画なのである。
音楽が凝っていて面白い。そして、カメラも素晴らしい。それが証拠にパンフレットに載っているスチール写真の1枚1枚がなんと美しいことか!
映画では新たに撮影されたリクの事務所での話(2人の秘書を含む)や、国土交通大臣の高屋敷(高嶋政宏)のエピソードなど、映画にはなかったキャラクターたちのシーンに、リクの父・積(上川隆也)とリクの確執と対決を描く別シーンを加えて、結構ドラマっぽくなっている。ただ、それは作品の本質を何等変えていない。
ともかく、ネタバレになるので具体的には書かないが、心に響く台詞がてんこ盛りである。いや、少しだけ書いておこう──「リクの笑うは、泣くと似てるな」、「もしも神という存在がいたとして、彼が、あるいは彼女が、我々人間に授けた、最も厄介な能力は何だと思う?」等々。
この原作漫画を書いた中村光という人の才能もさることながら、これをある種の映像詩にまとめあげた飯塚健の手法もこれまた見事であると思う。
河川敷の麦畑で、リクとニノがお互いを突き飛ばし合うシーンは、今まで数多く撮られてきた恋愛映画、青春映画の中でも白眉の部類だと思う。
僕は本当に切なく美しい映画だと思った。一方、映画館ではいろんなシーンに受けて笑い転げてる観客もいた。2つの見方は全然違うように思われるが、実はこの2つの要素をシームレスに統合したのがこの作品なのである。
今回映画で初めて観て感銘を受けた人は、是非ともDVDでテレビ・シリーズのほうも観てほしい。
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