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Sunday, February 26, 2012

映画『生きてるものはいないのか』

【2月26日特記】 映画『生きてるものはいないのか』を観てきた。石井聰亙が石井岳龍に改名して最初の監督作品。長編は2000年の『五条霊戦記』以来とか。僕は1995年の『水の中の八月』以来。ま、『五条霊戦記』も WOWOW で観たけど。

随分演劇的な作品だな、と思ったのだが、それもそのはず、前田司郎の岸田國士戯曲賞受賞作(ということは、芝居の世界ではめちゃくちゃ有名な作品だったのだ!)で、映画のほうでもその脚本がほぼそのまま採用されているとのこと。

当然舞台だからこそ意表を突ける構造があり、芝居だからこそ功を奏する演出があるのだが、石井監督はそんなことに拘るのは器が小さいとでも言わんばかりに、お構いなしにほぼ原作通りの脚本で映画を作ったらしい。

なにしろ原作の戯曲を読んで映画化を決意し、結局舞台のほうは一度も観ないで映画化したというところが面白い。

さて、この映画の何がすごいって、それは台詞である。ものすごい量の台詞がめちゃくちゃリアルに飛び交う。もう電車の中や喫茶店で聞こえてくる、隣の席の若者たちの会話そのまんま。

そうそう、こいつらこういう意味のないツッコミするんだよなあ、という感じ。聞いててイライラしてくるくらいリアル。

特に最初のほうの、喫茶店で修羅場を迎えているカップルの会話と、大学の校庭での女子大生たちの会話が本当に生き物みたいにリアルである。そのテンポ、ニュアンス、コミュニケーションの皮を被ったディスコミュニケーション、軽さと馬鹿さ──いかにもいかにも、なのである。

これは脚本家が登場人物の口を借りて言わせている、ストーリーを進めるための道具ではない。脚本家の措定したキャラが勝手に立ち上がって歩き出して喋っている言葉である。今までたくさんの映画を観てきたが、ここまで見事な会話劇は初めて観た。

その会話劇を、石井岳龍はやたらとカットを切り替えたり、逆にしつこくカメラを固定してフレームの外の人物に喋らせるままにしたり、いろいろと遊んでいる。

話はタイトルの通り。順番に人が死んで行く。何で死んでいるのかは解らない。ウィルスではないかという説は語られるが、それはあくまで一つの説である。で、次々といろんな人の死に様が描かれて、どんどんどんどん死んで「生きてるものはいないのか」となる。

一体笑って良いのやら悪いのやら判断つきかねる会話が進行している。でも、ときどき気がついたらぷっと笑ってしまっている自分がいる。テーマの重さと、芝居のしつらえの軽さを意図的にチグハグにしてある。非常に巧妙な設定である。

最後に見事な解決とか大どんでん返しとかが待っている訳ではない。だらだらと不条理が続いて行く。あたかも「人生ってそもそもそんな不条理なもんじゃないっすか」と言わんばかりに。しかし、それにしてもその終わり方はどうにかならんかったのか!

という訳で、見終わって「なんじゃ、これは!」と怒って帰る人もいるかもしれない。これは観た者にかなりのことが委ねられる作品である。これを観て何を感じ何を考えられるか、それを観客が自分自身で確かめるしかない作品なのである。

多くのことを感じ取る観客もいるだろう。ただの上滑りにしか思えない観客もいるだろう。

ただ、見終わってからどんどん深まってくる、尾を引く作品であることは確かだと思う。

顔を見てぱっと名前が言えたのは、染谷将太、高橋真唯、渋川清彦の3人だけだったが、神戸芸術工科大学(「協力」のクレジットあり)の学生2人を含めて、非常に個性的で味のある役者揃いだった。

客席はガラガラだった。うん、多分こういう映画は難しいよね、と思う。僕も「めちゃくちゃ面白いよ。皆さん是非とも観て!」とは言わない。でも、考えれば考えるほど深い作品だし、「たまにはこういうのもいいんじゃない」と言ってあげたい映画である。

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Comments

「生きてるものはいないのか」一度も予告編を見ていない。チラシも見たことがない。シネリーブルは池袋しか知らんし。ジャック&ベティでやるらしいので、見逃すことはないと思うが、「五条霊戦記」よりは面白いことを祈りつつ、行ってきます。

Posted by: hikomal | Sunday, February 26, 2012 19:16

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