『神様2011』川上弘美(書評)
【2月2日特記】 bk1 から現物が届くまでこんなに薄っぺらい本だとは知らなかった。短編小説集である。最初に筆者が1993年に書いた『神様』という小説が掲載されている。お弁当を持って熊と一緒に散歩に行くという、とても現実離れした小説である。ちょうど小川洋子の作品のように、とても不思議なことがまるで何でもないかのように起きている。
それから、昨年その作品に手を入れた『神様2011』という短編が続いている。「手を入れた」と言っても、ほとんどは元のままで、ほんの何箇所かが書き換えられているだけである。しかし、ほんの何箇所かが書き換えられているだけなのに、熊と散歩に行く半ばファンタジーが、完全に福島の原発事故を扱った小説に変貌してしまうのだ。この不思議を何と考えたら良いのだろう。
川上弘美は多分、「あ、そうか、ここをこう変えたら原発事故の小説になるな」と思いついて書き換えたわけではないはずである。何かが彼女にこんな風に手を入れさせたのである。それが何であるのかは分からない。だが、原発の事故こそが、とても不思議なことがまるで何でもないかのように起きている事例そのものではないか。
この符合に驚き、そして、彼女自身によるあとがきを読む。
確かに神様はいるのかもしれない。
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