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Saturday, January 21, 2012

映画『月光ノ仮面』

【1月21日特記】 映画『月光ノ仮面』を観てきた。

吉本興業という枠に、良い意味で収まりきらない芸人、板尾創路の監督第2作である。

前作『板尾創路の脱獄王』は、ほんとにもう、顎が外れそうなほどの、仰天脱力コメディだった。

それに比べると今作は面白くない。いや、つまらないという意味ではない。ガハハと笑わせるストレートな喜劇ではないのだ。

ありきたりな表現をすれば、前作より遥かにシュールである。「とぼけた」と評するには少し難解で、「ゆるい」と形容するのを許さない、凛とした緊張感がある。

不思議だ。

顔を包帯でぐるぐる巻きにした復員兵(板尾創路)がどこだか分からない街(そこに続く荒野のような道を見ると東京とは思えない)の寄席に現れる。そこに居合わせた森乃家天楽師匠(前田吟)の娘・弥生(石原さとみ)が、彼が持っていた御守りから、それが自分の婚約者でもある一門の落語家・森乃家うさぎであると証言する。

ところが、彼には過去の記憶が全くない。落語についても、以前の技量は全くないのだが、なぜか「粗忽長家」のネタだけは全文暗記している。

そこへ本物の森乃家うさぎ(本名・岡本太郎)(浅野忠信)が帰還してくる。こちらは戦争で負った傷のために声が全く出ない。

しかし、板尾と浅野では顔は似ても似つかない。いくら包帯してても婚約者なら区別がつくだろう、と思うのだが、本物が現れたときには既に偽物と何度かやっちゃったあと、というむちゃくちゃな設定がおかしい。

師匠も兄弟弟子も町の人も誰も疑わない。本物が現れてから「おめえはいってえ誰だ?」ということになる。

こういうなんとも不思議な図が、ベートーベンのピアノソナタ『月光』に乗って繰り広げられる。暖色系を抑制したフィルム、月はいつ見ても満月──そんな変な映画なのに、馬鹿にならない、深い深い趣がある。

僕は落語には全然詳しくないのだが、そもそもがシュールな古典落語「粗忽長家」を見事に下敷きにした脚本であるらしい。そのネタを知った上で見たらもっともっと感慨が深かったと思う。

竹林のシーンとか、2階の窓から石原さとみの背中越しに撮った門の外など、印象的な画がふんだんにある。一方、単なるギャグなのか何かの隠喩なのか解釈に苦しむシーンもたくさんある。

結果としてはどういう映画か?──妙に心に引っかかるのである。

この映画が単体でどうかということより、板尾創路の、誰にも真似のできない感性が際立ってくる。

うん、悪くないなあ。そう、悪くないと思う。

石原さとみが良い。まあ、好きな女優だからいつも褒めることになるのだが、僕は日本中で一番「そそられる」女優だと思う。今回も思いっきりそそられた。

板尾が事に及ばんとして彼女の手を引いて竹藪に入っていく、あのスリリングなシーンが忘れられない。

彼女の複雑な女心が、なんだか分からない感じで見事に描かれる。そう、その意味不明なところが適切なのである。

で、エンディングの音楽は『キーハンター』のテーマ。

なんじゃ、そりゃ(笑)

「人を喰う」とはこういうことを言うのだろう。

パンフレットに門間雄介という人が見事な解題を披露している。しかし、こんなにきれいに解釈してしまうと、不思議なことに少し面白味が失せてしまう気がする。

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