『メディアと日本人』橋元良明(書評)
【1月13日特記】 著者が社会心理学者として、またBPOの委員として、長年取り組んできた精緻な研究データを素に、それぞれのメディアと日本人のメンタリティを論じている文章である。
さすがに社会心理学、統計学の専門家が書いた本である──というのが僕の第一印象であった。ともすれば、たったひとつのアンケート結果から安易に誰もが思いがちな結論に持って行くような本が多い中、この本はまずそういう短絡的な結論に異を唱えるところから始めている。
「そういう風に思われがちだが、実はこの調査結果からそういう結論を導くことはできない」というような記述が随所に見られるのである。統計的に見てそれが優位な差であるのかどうか、あるいは擬似相関を示しているだけなのではないか──そういう「統計の見方」について教科書的な正しさで、街場のいい加減な推論を覆しにかかるのである。
もっとも分かりやすい例としては、終盤180ページにある、「日本人の20歳から50歳までについて、50メートル走の速度と年収との関係を『統計学的に』分析すれば、おそらく50メートル走の速度が遅いほど平均年収が高いという統計的に優位な関係が出るはずである」という説明が面白く分かりやすい。
ことほどさように、この本は地道な調査結果と、そこから正当に引き出される結論を冷徹に開示する本であって、放送やインターネット業界の立場からそれぞれのメディアを擁護するものでもなく、逆に若者のテレビ離れやインターネットによる弊害を声高に語る社会学者のような立場でもない。
むしろ、そのいずれの陣営の人たちとも一緒になって、今それぞれのメディアがどういう状況にあるのか、それらはこれからどういう方向に進むのか、そして我々はどうして行くのが正しいのか──そういうことを考える上での貴重なデータベースがここにあると考えるべきなのである。
メディアを考える上で、これほどちゃんとした「資料」にはあまりお目にかかったことはない。ただ、あくまで資料としての本である。優れた資料ではあるが、資料である分、キャッチーで解りやすい結論を書こうなどとはしていないので、その分読み物としては別段面白くないかもしれない。
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