« TB or not TB, that is a question. | Main | 心と体 »

Wednesday, December 07, 2011

映画『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』

【12月6日特記】 映画『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』を観てきた。

こういうメロウなドラマは、僕は普段ならまず観ない。中井貴一が主演した前作も予告編をちょっと見ただけでげっそりして、およそ観る気にならなかった。なのに、世の中にはその二番煎じを作ろうとする人がいることがまず信じがたい。そして、今作のサブタイトルがまた、芬々たる臭さである。

にも関わらず観に行ったのは三浦友和が出ているからである。このブログでも何度か書いているが、僕は三浦友和の大ファンなのである。

百恵ちゃんの相手役のときは別段好きでも嫌いでもなかった。それが1985年の相米慎二監督作品『台風クラブ』でいっぺんにファンになった。この映画は多分彼が初めて大きな賞をもらった映画だったと思う。

この『RAILWAYS』に関して言うと、予告編だけ観ても、三浦友和はめちゃくちゃ良さそうなのである。そして、短い予告編の中でほんの短いシーンが映る米倉斉加年がまたしみじみと良さそうなのである。

本来観ないタイプの映画なのだが三浦友和が出ているので観たと書いたが、実は逆で、大好きな三浦友和が出ていて、予告編も良さそうなのに、それでも「こういう映画はどうも」と躊躇していたのである。

それが信頼しているある知人の映画評を読んで観る気になった。やっぱり良さそうなのである。

で、観て良かった。やっぱり良かったのである。

夫婦の話である。夫の徹(三浦友和)は富山地方鉄道の運転士。定年まで1ヶ月を残すのみで、まさに運転士一筋の人生。仕事場での信頼は厚いが、その分家庭のことはあまり顧みなかった。それでも、定年になったら妻を旅行に連れていってやろうというくらいの気はあって、旅行のパンフレットを持ち帰ったりする。

妻の佐和子(余貴美子)はしかし、のんびり旅行などする気はなく、夫が定年になったら、かねてからの希望通り看護師の仕事に復したいと考えていた。今まで何度言っても夫には取り合ってもらえなかったが、今度こそは反対されようが罵られようが、離婚してでもやる決意である。

そういう夫婦の心のすれ違いの物語である。その2人を取りなす妊娠中の娘・麻衣に小池栄子が、その夫の寿司職人・光太に塚本高史が扮していて、ともに良い芝居をしている。

最初に佐和子が麻衣を乗せて軽自動車を運転しているシーンがあり、次にその軽自動車が駐車してある一戸建てに自転車に乗った徹が帰ってくるシーンがある。そして、いくつか後の場面で徹が自転車で帰ってくると軽自動車が停まっていないシーンがある。これだけで佐和子がいなくなったことを観客に解らせる──とても巧いと思う。

その後も繰り返される徹の帰宅シーン。あるときは自転車で、ある時は徒歩で。家の前まで来てガレージを見る──やっぱり帰っていないか、という顔。車があるのを見て駆け出すが転んでしまう。夜遅く電灯がついているので家に駆け込んでぜいぜい言っている。──などのバリエーションを重ねて、徹の複雑な気持ちを巧みに表している。

でも、佐和子が悔い改めて帰ってきたのではないと判ったり、佐和子ではなく娘の麻衣が来ていただけだったと判ったりすると、にわかに不機嫌でぶっきらぼうになる徹。この辺りはまさに三浦友和の演技力を見せつけるために書かれたのではないかと思うくらいの脚本である。

全体的に台詞が良いのだが、何か喋りそうなのに結局徹は何も言わない、というシーンがいくつかある。これもとても良い。

徹と麻衣が言い合いになって台詞がモロに被るシーンがある。当然両方の台詞が聞き取りにくくなるので、ドラマでは部分的に重ねることはあってもここまでモロ被りにするのは手法としては珍しい。でも、実生活ではよくあることなので、そこにリアリティがあり、また両方の台詞もちゃんと聞き取れる。

鉄道マニアなら知っている話なのかもしれないが、西武鉄道のかつてのレッドアロー号の車両が富山地方鉄道で走っているというようなトリビアがストーリーに上手に織り込んであって、よく練れた脚本であると思う。

ストーリー全体を眺めてみても、お約束通りの設定とお約束通りのシーンは押えるべきところをしっかり押えながら、決してそこに留まらず結構うねらせている。ホームドラマ、メロドラマに加えて難病もの的な要素や、ちょっぴりアクションやサスペンス的な風味も添えながら、終わりそうで終わらない展開である。

そして、見終わった後から、改めて納得するようなシーンが散りばめられている。笑える台詞も随所にある。

脚本は小林弘利とブラジリィー・アン・山田。どちらもあまり知らない人たちだ。この共同がどういう形態での共同だったのかを知りたいと思った。そして次はもう少しメロウでない作品を観てみたい。

監督は蔵方政俊。前の『RAILWAYS』では助監督だった人だ。これが監督デビューである。

柳田裕男が静かに動きながらカメラに収める画は、景色も人もとても良い。特にラストシーンの駅の俯瞰などはとても印象的だった。

出演者の話に戻ると、研修中の運転士を演じた中尾明慶。この人はこういう役柄が多いが、こういう役柄をやらせると本当に嵌り役である。そして前述の米倉斉加年──あのひとことの名台詞を吐かせるためにこの老優をブッキングしたのは見事だと思った。

今年は『死にゆく妻との旅路』とこの『RAILWAYS』と、三浦友和主演作を2本観た。たまたまではあるが、ともに妻を思う夫の物語である。どちらの夫も、三浦友和が演じなければここまでの作品にはならなかったのではないかと思う。

|

« TB or not TB, that is a question. | Main | 心と体 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 映画『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』:

« TB or not TB, that is a question. | Main | 心と体 »