映画『ステキな金縛り』
【12月11日特記】 映画『ステキな金縛り』を観てきた。
脚本家・三谷幸喜については僕は結構昔からのファンである。ところが、映画監督をやりだしてからは、何本か監督作品を見たあと、とうとう嫌になってやめてしまった。それは台詞を言っている俳優だけをどこまでも追っかけ回すカメラワークのせいである。
良く言えばそれは劇場の観客の視点なのだが、悪く言えばスクリーンを狭めるような悪しき試みであり、映像というものの持つ可能性を非常に限定してしまっている。僕はそれがどうにもこうにも気に入らなくて、とうとう彼が監督をした作品を観るのをやめてしまった(彼が脚本だけ書いているドラマなどは別)。
今回は予告編が面白そうだったので観に行ってもいいかなと思っていたのだが、観るにあたって一番気になっていたのはそのことである。そして、見終わってほっと胸をなでおろした。あのカメラワークはやめていたのである。少なくとも昔のような偏執的な感じはなくなっていた。一体いつごろからやめたのだろう?
それさえなくなれば何の文句もない。大いに愉しんで帰ってきた。如何にも三谷幸喜らしい楽しい作品である。そして、これでもかというほど次々と主演級の役者が登場する豪華キャストである。それぞれがちょっとずつ出てくるところが如何にも三谷幸喜っぽい(最後の「勝訴の旗を持つ男=大泉洋」には笑った)。この役者さんたち、みんな三谷ファンなのかもしれない。
これほど笑わせるツボを心得た脚本家は他にはそうそう見当たらないだろう。そして、それまでの世代の脚本家には書けなかった、ブロードウェイのミュージカルみたいなテースト。今回はそれに加えて、落ち武者の亡霊が殺人事件の裁判の証人になるという奇想天外な設定である。
落ち武者・更科六兵衛役の西田敏行はあまり好きな役者さんではないのだが、こういう役なら彼の芸風がどんぴしゃりである。そして、その彼を法定に引っ張り出してきたダメ弁護士(でも何故だか幽霊は見える)宝生エミ役が深津絵里、その上司の速水(幽霊は見えない)を阿部寛がノリノリで演じている。
他の俳優たちも含めて、演じている役者さん自身が大変楽しんでやっているのがこちらにも伝わってくるぐらい、明るく楽しくテンポ良く芝居は進んで行く。
ただ、事件が解決するに至る最後の茶番──あれは何とかならなかったのだろうか? ま、コメディだからそれで良いと言えば良いのだが、ちょっとあまりにお粗末で、あの『古畑任三郎』を手がけた脚本家なのだから、もう少し小マシなトリックは思い浮かばなかったのだろうか、と残念な思いがした。
でも、まあ、見事なエンタテインメントである。館内はたびたび爆笑する。三谷幸喜のサービス精神が映画の冒頭からエンディングに至るまで脈打つように伝わってくる。そして見終わってちょっぴりハッピーな気分にもなれる。
監督なんかやらなくて良いから、もっともっとこういう脚本をたくさん書いてくれたらなあと思うのであった。
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