回顧:2011年鑑賞邦画
【12月29日特記】 今年も押しつまってきたので、恒例の「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい映画10本」という記事を書いてみる。
毎年書いているように、これは「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい映画」であって、「入るであろう映画」ではない。
どちらで定義しても選ぶ映画だってもちろんあるのだが、「入るであろう」ならば、「僕自身はあまり感心しなかったけれど世間の評判は高いみたいだから」みたいな作品も選ぶことになる。
「入ってほしい」にすることによってその手の作品を外し、逆に「あまり褒めている人はいないけど、僕はすごく気に入ってて、なんとかランクインせんものかと思っている。『キネマ旬報』であれば、これが選ばれる可能性はあるはずだ」みたいなものを加えることになるのである。
キネ旬ベストテンを対象にしているのは、それが僕が最も信頼している、僕と最も相性の良い賞だからである。
さて、今年1年間で僕が映画館や試写会で観た邦画は46本。ここ数年では少ないほうである。そのうち『アブラクサスの祭』は、僕が観たのは年が明けて1月の9日だったが、既に昨年のキネ旬ベストテンの第60位にランクインしているので、今回は除外した。
今年、「あーあ、見逃しちゃった」という映画では『見えないほど遠くの空を』、『ポールダンシングボーイ☆ず』などがある。
で、以下が残り45本の中から、僕が「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい」という祈りを込めて選んだ10本である。なお、これも毎年書いていることだが、番号は僕が観た順番であって評価の高さとは無関係である。
今年は意外に迷うことなく10本を選んだ。強いて言えば、4)にするか『CUT』にするかを少し悩んだ程度である。
去年の邦画界は、賞レースに向けてまさに『悪人』と『告白』の一騎打ちという感じに収束して来たが、今年について言うと、それほど本命視される作品がない。となると審査員の票はバラけるのだろうが、僕個人としては、僕が観た映画の中では間違いなくこの10本が上位にランクされてほしい10本である。
1)はもう吐き気を催すような園子温ワールドである。怪物みたいな映画であった。今年は園監督はもう1本『恋の罪』を撮っているが、問題なくこちらが上だと思う。でんでんも吹越満も、まさに怪演と言うしかない演技だった。本当に園子温らしいヤバイ映画だった。
2)も凄い映画である。タイトルからして凄い。死にゆく妻を連れて旅に出る──それが果たしてあるべき愛の形なのか、僕らが画面を見ながら抱く疑問は結局自分自身に返ってきて突きつけられるのである。
三浦友和と石田ゆり子の夫婦に僕は言葉を失った。山田耕大の素晴らしい脚本と高間賢治の見事なカメラワーク。そして全体をまとめた塙幸成の力量を証明する作品となった。
3)は、原作を読んですぐに観ただけに、あちこちでちょっと引っかかる部分もあったが、結局奥寺佐渡子の脚本に脱帽という感じである。成島出監督は初めて見たが良い監督だと思う。永作博美も良かったが、相変わらず小池栄子が巧い。
で、奥寺佐渡子が脚本を担当した映画がもう1本ある。それが6)である。その見事な脚本を、監督の廣木隆一が、持ち味である引き画をふんだんに使って、これまた見事に切り回して行く。鈴木杏と高良健吾の好演もあって、非常にレベルの高い作品になったと思う。表現とは何かを考えさせられるような映画だった。
ふたつ戻って4)は、これを選ぶか外すか少し悩んだのだが、「入ってほしい」というコンセプトの原点に戻って選んでみた。監督は『SR サイタマノラッパー』の入江悠である。依然として少しマイナー臭は漂っているが、この人の表現力と構成力はなかなかのものだと思う。
さて、5)と7)が僕にとっては今年の邦画の双璧であったと思っている。山下敦弘と青山真治というともに実績のある監督である。監督の力量というものが一番はっきり見えた映画ではなかったかな?
5)については、安保なんて全く知らない世代である山下と向井のコンビがよくぞここまでの映画を撮ったという驚きがある。逆に言うと、今のこんな時代に敢えてこんなテーマに挑んだというところが一番秀逸な点だったのではないか。
7)はもうひとことでは語れない。今までのどの青山真治とも違うが、青山真治でなければ絶対に撮れない映画であると思った。観客にものを考えさせる映画は間違いなく良い映画である。映画って、こんな風に作るのか、というような驚嘆を覚える。表現するという行為が如何に深いものかを思い知らされる映画であった。
8)は原田芳雄の遺作である。阪本順治の演出もさることながら、原田芳雄、岸部一徳、大楠道代といった出演者たちがあまりに名人芸過ぎて、観ていて歯が立たない思いさえしてくる。まさに阪本が原田のために撮った映画で、原田の遺作にふさわしい映画になった。
9)はどちらかと言えばベタな話で、あまり期待せずに観に行ったのだが、しっかりと世界観が構築できていて、下世話な感じがなかった。ある種難病ものの映画であるのに、この後口の良さは特筆すべきかなと思った。
今年の宮﨑あおいは、この作品と言い『ツレがうつになりまして。』と言い、なんだか病気と良妻をテーマにしたものばかりだったが、やっぱり僕はこの女優が大好きである。(宮崎あおい)
最後に今年のハイライトは10)だろう。この映画を選ばない手はない。TVシリーズとの合わせ技で選ぶのであればこの映画が第1位になっても不思議はない。映像であり、音楽であり。セックスであり、恋愛であり。ポップであり、サブカルである。──こういうセンスは大根仁以外の演出家には絶対ないものであると思う。
ということで、今年はこんな10本を選んでみた。前述の『CUT』の他に選ぶかどうか迷った作品としては『毎日かあさん』、『漫才ギャング』といったところだろうか。
今年は去年以上に外しそうな気がしないでもない(笑)が、1月中旬には出てくるであろう『キネマ旬報ベストテン』の発表がとても楽しみである。
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